仮面
―骨董品屋 朝―
久しぶりに、僕はこの骨董品屋に来た。独特な雰囲気に匂い、不気味と言えば不気味だし、味わい深いと言えば味わい深い。人によっては近寄り難い場所かもしれないが、僕にとっては好みの場所だった。
(木のいい匂いだ……懐かしい)
この店は、この周辺では珍しく木造だ。多分、店主の趣味だろう。
僕の国では、いや周辺の国々ではそれが普通だった。だからだろうか、安心感を得ることが出来るのは。
(身を隠すのに最適な物はあるだろうか……?)
高そうな皿、変な形をしている木製の何か、少々不気味な置物……ここにあるものはそんな物ばかりだ。
だから、ここに来るのはコレクターくらいのものだとここの主人が言っていた。多分、僕もコレクターだと思われているのだろう。
しかし、そんな趣味は全くない。抑えきれない破壊衝動を、発散する為だけにここで物を買っていた。ここにこだわる必要もないのだが、家から最も近くで破壊出来る物を売っているから選んだまで。その衝動も、最近では何故か落ち着いているが。
(仮面……どこかで見たような)
普段は皿や壺を売っている所くらいしか基本見ないが、今日は店中をかなり探索している。元々広いなとは思っていたが、改めて歩いてみるとかなり奥行きがある。
(なかったのかなぁ、うーん)
記憶があやふやで、そもそもあったのかどうかも疑わしい。もどかしさを感じながら、ある棚の前に来た時だった。
(あ! あった!)
そこにあるのが仮面だと認識出来たのは、見慣れた般若やおかめがあったからだった。それ以外にも、かなり重そうな木製の仮面や、装飾が豪華な物もあった。
(どうしようか……あまり派手過ぎても嫌だし、重過ぎてもなぁ。それに、怖いってはっきり伝わるようにしたい)
そして、僕は少し考えた末に般若の面を手に取った。少々重みはあるが、それでも他の物と比べればマシな方だと思ったからだ。
(紐はあるね……ただ、その分後ろが危なくなるな。何か隠す物がいる。それに、この僕の髪が見えてしまうのも困る。カツラも買わなくては)
この僕の黒髪は、この国では目立ち過ぎる。普段ならどんな好奇の目でも耐えられるが、今回では話が別だ。
その人物を徹底して調べるだろうし、その特徴が重要視されるだろう。それがきっかけで、僕に辿り着いてしまう最悪の事態は避けなくてはならない。僕の原型がなくなってしまうくらい、姿を変えなくてはならない。
(仮面の上にカツラをつけて……フード付きのマントでも被るか? それで声を変えれば……)
僕が僕でなくなれば、もう本当の真実など誰にも――見えることはない。




