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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
七章 この罪は私のもの
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この恩は必ず

―街 朝―

 庭を抜け門をくぐり抜けて、さらに道を歩み、いつもと何ら変わりないようにしながら僕は街へと出た。


(……ちゃんとばらまけたみたいだ)


 街は少し不穏な空気が流れていた。夜中、僕がばらまいた大量の紙。それが至る所に落ちている。

 そして、それを人々が拾い眺めている。僕もその輪に加わる為、落ちていた紙を一枚手に取った。


(恥ずかしい文章だね……もう少し考えて書くべきだった)


 勢いに乗って、慌てて書いた文章だ。字も汚いし、バランスが悪い。徐々に右上がりになったり、突然文字が大きくなったりしている。

 ただでさえ醜悪なこの文章を、よりいっそう醜くしている気がする。


(これから、ずっとこの文章は晒され続ける訳か……もう見たくないな。行こう)


 僕は紙を適当に折り畳み、ポケットに入れ、レストランに向けて足を進めた。

 そんな中、沢山の声が聞こえてきた。


「真犯人ってこと?」

「イタズラじゃないの?」

「イタズラにしては、少し手が込んでないか?」

「暇なんじゃないの?」


 僕が必死にやったと言うのに、その手紙の効果は薄かったようだ。


(イタズラかぁ。違うんだけどなぁ)


 無理もないのかもしれない。たった一枚の紙切れでは、そうなってしまうのが普通だろう。

 やはり、本人が姿を見せなければ。小物がやる小さなイタズラに過ぎなくなってしまう。ただ、不安を煽り挑発しているだけになってしまうのだ。


(忙しくなる……やらないと)


 しばらく歩いて、ようやくレストランが見えてきた。開店前なので、そこには掃除をしているデボラさんがいた。


(デボラさんに伝えて貰おう……申し訳ないけど)


 僕が少し近付くと、デボラさんは気配を感じたようで箒を動かすその手をとめた。そして、いつもと変わらない笑顔で僕を見て叫ぶ。


「タミじゃないかい! 昨日はどうしたんだい? 急にいなくなったりして、心配してたんだよ!」

「すみません!」


 僕は走って、デボラさんのいるレストラン前まで向かった。


「また何かあったのかと思ってね……アッハッハッ! 無事ならいいんだよ」


 デボラさんは豪快に笑うと、僕の頭をクシャクシャと撫で回す。僕はそうされるのが、まるで子供扱いされているようで嫌だが、ただそれをやめて欲しいだなんて言える立場でもないので、僕はグッと堪えた。


「デボラさん……あの、お伝えしたいことが」

「ん? 何だい?」


 僕の表情を見て何か悟ったのか、デボラさんは笑うのをやめ、撫で回す手をとめた。


「しばらく休ませて貰えませんか?」

「……何かあったのかい?」

「実は……その……どうしても、やらなければならないことがあって。その為に時間が必要なんです」

「そうかい……なら、仕方がないね。あんたにはずっと頑張って貰ってたからね。いいよ、気にせずやっておいで」


 そして、デボラさんは優しく僕に笑みを向けた。

 この反応は何となく察していた。彼女らはとても心が広いから。普通だったら、この程度の理由で休みなんて貰えないだろう。

 

「トーマスさんにもそう伝えて下さい。あと、ご迷惑とご心配をおかけしてすみませんって……」


 僕はそれだけ伝えて、レストランを後にした。


(この恩は必ず――)

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