違う!
―自室 早朝―
「どうして……」
クロエがいなくなった部屋で一人、僕は涙を流しながら後悔していた。
「どうすれば……」
クロエを責め立てたって、どうしようもないことくらい分かっていた。問題があるのは、この僕だ。力を使いこなすことが出来れば、自分の全てをコントロール出来ていれば、誰も傷付けずに済んだはずなのに。
僕は僕自身を許せなかった。その怒りの行き先を、近くにいたクロエにぶつけただけに過ぎない。最低だ。彼女は命令に従って、行動しているだけ。その命令に歯向かえば、彼女自身が危ういから。
王からの命令に歯向かうこと……それがどれだけ恐ろしいことかは、僕だって分かる。誰よりも分かっている。それを知っていながら、僕は彼女に怒りをぶつけたのだ。
「どうしたら……」
やってしまったことは、過ぎてしまったことは、起こってしまったことはしょうがないと自分に言い聞かせて、今の僕に出来ることをやったつもりだった。自分の背負っているものを守る為、アリアを救う為……犯してしまった知らぬ間の過ちを償う為。
正解だとか、不正解だとか。間違ってるとか、間違っていないとか……何も分からない。ただその信念に従って、僕はあの手紙をばら撒いた。
(僕は間違っているのか? でも、ああしなければ……アリアに全ての罪を着せられていた。ああするしかなかった。何も知らない人達を利用するしかないんだ……)
自分で自分が情けない。許せない。誰かに当たることでしか、自分を保てないこの器の小ささが。
(……僕は何も成せていない。守って貰えている立場で、あんな偉そうなことを言い放っておきながら。全てを守って欲しい? なんて情けないんだ……)
自分の発言を振り返って、さらに恥ずかしさが増す。
「うぅぅ……!」
こんな時、近くに頼れる人がいたのなら僕は少し楽な気持ちになれていただろうか。それが出来ない道を、自分で選択した。こんな僕には、相応しくない道だったのかもしれない。
ただ学びたかっただけ。国を守る為に、更なる発展の為に最適な魔法や魔術のことを。それが、僕の――
――違う……――
「え?」
――違う……! 何もかも違う!――
脳内から響くように久々に聞こえた、彼の声。その切羽詰まった声は、僕に何かを訴えようとしていた。だが、何かに邪魔されてしまったかのように途絶えてしまった。
(君なのか? どうして? 僕と同化したはずじゃ……?)
恐る恐る問いかけてみたものの、返事はなかった。幻聴ではない、間違いなく彼の声だった。彼の声……すなわち僕の声だ。他者が聞いた僕の声を聞いているような感じだ。
ゴンザレスという存在がそれを教えてくれた。奴が地声を使って話した時、脳内で響く彼の声が僕のものだったのだと理解した。
「何が……違うの?」
何に対しての否定だったのか、僕には分かりそうもない。ただ、心当たりがあるとすれば、かつて違和感を感じたこと……それは僕がこの国に来た理由や、クロエとずっと一緒に暮らしていたということ。
(まさか……いや、そんな……っ!)
頭が混乱してきた僕は、気を紛らわす為にアリアの待つ森へと食料を持って向かうことにした。




