偽りのメッセージ
『嗚呼……なんと嘆かわしいことでしょう。警察にはがっかりしました。この私の功績を、あのようなか弱い非力な女性のものにするとは。一体、どんな捜査をしたのか甚だ疑問に思います。あれだけの証拠がありながら、非常に滑稽な判断です。面倒臭かったのでしょうか? あれだけの証拠を見れば、幼子だって彼女が犯人ではないということくらい分かるでしょう。私だから出来ることです。私の名誉の為、今すぐに彼女が犯人であるということを撤回しなさい。でなければ、再び悲劇が起こることでしょう。私に、こだわりはありません。私は理想と信念を貫くのみです。先ほどがっかりしたと書きましたが、平凡以下である者達に失敗はつきものだと私は考えています。捜査のプロである貴方達が、まさかその類に入っているとは思いもしませんでしたが……事実として起こってしまったことですので、仕方がありません。一度目の失敗は赦しましょう。賢明な判断を期待していますよ。ヴォール=アームド』
夜の闇に紛れ、街に無数の紙がまるで時季外れの雪のように舞った。
***
―自室 早朝―
「――っ!?」
腹部に激しい痛みを感じて、僕はベットの上で目を覚ました。
「……どこで何してたのよ。こっちは必死で探してたって言うのに。部屋で平然と寝てるなんて!」
目の前には、僕の腹に拳を置いているクロエがこちらを鋭く睨んでいた。声を荒げ、僕に怒りをぶつけていた。
「あ……あぁ」
ぼんやりとする意識の中、夜中のことを思い返していた。アリアが召喚魔法を使用したことで、僕はレストランから一瞬で森に移動した。僕の企みによるものではないが、クロエは僕が目を盗んでこっそり抜け出したと思っているのだろう。
「あ……あぁ、じゃないわよ。まさか帰っているなんて……門番に聞いた時は驚いたわ。殺意すら覚えたくらい。で、どういうつもりでこんなことを?」
「えぇ……?」
眠過ぎて、正直返答する元気がない。夜中に必死で挑発的な内容の手紙を書いて、その手紙を魔法で増やし、その全ての手紙に僕が関わったという証拠を消す為に呪術をかけた。そして、それを街中にばら撒いて家に戻った。
クロエも疲れているかもしれないが、僕も疲れているのだ。お互い疲れているのだから、とりあえずここは一度眠るべきではないだろうか。
「寝ぼけないで、ちゃんと答えなさいよ!」
「うっ!?」
再び、腹部に激痛が走る。お陰で、今度こそ眠気が吹き飛んだ。
「僕はいつも通りさ……僕を見失ったのは君のミスだろう?」
「レストランの人達も、突然消えたって大騒ぎしてたけど。何? 何を企んでるの?」
(それは面目ないな……トーマスさん達はともかく、他の従業員には絶対何か言われるよ)
「……ちゃんと伝えたと思ってたけど、疲れてたのかな」
「とぼけるのも、いい加減にして。あれをバラまいたのは、巽君でしょ!」




