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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
六章 犯した罪を誤魔化して
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言葉遊び

―自室 夜中―

 僕はすぐに家へと戻り、自室で手紙を書いていた。事実の隠蔽のことで、頭がいっぱいでクロエが監視していないということすら気付かず黙々と。


(傲慢に……挑発するような文章を書かないと。多くの人が憎しみや不快感を感じるようにしなければ……この手紙の差出人の人物に、全ての負の感情が向くように……)


 今、僕が書いているのは最低最悪の不特定多数の人を傷付ける文章だ。しかし、何故だろう。普通の誰かの為を思って書く文章よりも書きやすかった。おかしいくらいに、スラスラと手が動いた。


(思いやりもいらない。優しさなんて必要ない。ただ自己顕示欲だけが溢れる醜い文章を……)


 こんなにも、自己中心的な文章を書くのが楽だとは知らなかった。いつも、誰かに手紙を書く時は異常なまでに時間がかかっているのが嘘のようだ。

 

(……よし、書き終えた。後は……名前だ。いや、いらないか? だけど、名無しだと人物像が掴まれにくくなるかもしれない。少し考えてみるか)


 僕は真っ白な紙を取り出して、適当に知っている言葉を英語で書いてみることにした。


(悪い意味の単語がいいのか……? いや、悪は正義を語ることが多いし、あえていい意味を持つ単語にするのがいいのかな。そうすることで、さらに皆から反感を買うことが出来るかもしれないし)


 そして、僕は一通り思いついた明るい言葉を書いた。


「正義、英雄、希望、未来、夢、秩序、勇気、愛、平和、真実……こんな所かな」


 ここから、名前を作り出さなくてはいけない。いくつか組み合わせて、それぞれでスペルを入れ替えるべきか、それとも一つの単語のスペルを組み替えるべきか……少し考えた末、前者を選択した。


(言葉遊び……そんなセンスないけど。二つを合わせるのもいいだろうけど、僕にはそんな才能ないしな。まだ、それぞれでやった方がマシだ)


 紙に書いたいくつかの単語の中から、僕は何となく適当に選んでみた。


(夢と愛……にしてみるか)


 愛のスペルを名前に、夢のスペルを苗字に持って行く。そして、それぞれをアルファベットへと変えて別の単語を生み出す作業を始めた。

 しかし、そんな経験もセンスもない僕には中々難しい作業だった。同じ文字を使ってしまったり、ない文字を使ったり……そんなことを繰り返しては消して、何とか納得のいく名前を生み出した。


Vole(ヴォール)Armed(アームド)


 その名を、手紙の最後の行に記す。


「やっと……出来た」


 たった一枚の手紙を書くだけだったのに、まさか最後の最後でこんなに苦労することになろうとは思わなかった。こだわらなければ良かったのだろうが、折角やるならしっかりとしておきたかった。中途半端では、意味がないのだ。


「これを数百枚複製して……」


 僕がその手紙に手をかざすと、たった一枚の手紙だったはずの物は紙の山を作り上げた。


(よし、仕上げだ)


 そして、僕は自身の指の皮膚を力一杯に何も考えず噛み千切った。


「うぐっ……」


 激痛が指から全身に広がっていく。そこから、血がポタポタと流れ落ちた。僕はそれを手紙へと持って行き、呪文を唱える。


「我に関わる全ての証拠を抹消し続けろ……我が血の下に。全て……消えてなくなれ!」


 刹那、真っ白な紙に染み込んでいた真っ赤な血が溶けるように消えていく。これで――呪術は成功したことになる。今、この紙には僕が書いたという証拠も、魔法を使ったという証拠も何も残っていない。これからも、僕に関わる証拠はなくなる。


(アリアが感じた苦痛に比べたら……僕の寿命が一年程度減るくらいなんてことない。あの世の母上にも、もうどこにも存在しない二人にも怒られてしまうかもしれないけど……当然の報いだ)


 これが、呪術の素晴らしさであり……恐ろしさだ。他にない魅力が、呪術にはある。危険だと禁忌だと知っていながら、僕はそれに依存し続けているのだ。

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