疑いを晴らせ
―森 夜中―
(そうだ、もしかしたら……これなら、上手くいくかもしれない!)
誰の力も借りず、僕自身の力だけで解決するとするならば、もうこれしかないと思った。
「アリア。何かが起こらない限り、絶対にここから出ちゃ駄目だよ」
「うん……それは、そのつもり。だけど、食べ物とかが……あんまりない」
アリアは、ぐったりと俯いた。
「いいよ、僕が届けるから」
咄嗟に飛び出して、恐怖に怯えながら逃げて来たのだ。何も用意してなければ、準備も出来ていないのも当然だろう。僕としては、こちらに原因があるのだから、なるべくのサポートをしたかった。
「え……本当?」
アリアは、目を真ん丸にして僕を見つめた。
「うん。ただ、ここがどこなのか……いまいち分かっていないんだけど」
イギリスのどこかであることは間違いないだろう。
「ここは、レイヴンの森。色々あって人はほとんど寄り付かない、だからここはある意味で安全なの。ちょっとだけ不気味だけど……空き家もいくらかあるから、暮らす場所には困らない。それに、ここの空気とても好きなの」
「そうか、レイヴンの森……街から近いのかい?」
「街からは少し遠いかな。学校からだと近いかも」
「分かった。地図を見て、確認するよ」
「ありがとう……本当に」
彼女はグチャグチャになった顔を、不気味に歪ませて笑顔をらしきものを作った。こんな僕にそれを向けられる資格も、感謝の言葉を貰う資格もない。
恥ずかしさと申し訳なさでいっぱいになった僕は立ち上がり、周囲を見渡した。電気などなく、本当に真っ暗だ。頼りになるのは、月の光だけ。こんな不気味な場所で、彼女は一人で生活をするのだと思うと本当に申し訳なくなってくる。
「……僕が可能な限り、君を守る。僕に出来ることなら……やるさ」
「ごめんね……」
謝られる資格も僕にはない。そう、僕には何の資格もないのだ。
「今はもう行くよ。また後で、食べ物を持ってくる」
「うん。そのまま、真っ直ぐ行けば帰れるから」
このまま彼女と一緒に居続けると、恥ずかしさや情けなさ……そう言った感情で気が狂ってしまいそうだった。一刻も早く立ち去り、先ほど閃いた案を実行することでそれを誤魔化したかった。
(顔を隠す物がいる……服もだ。姿を晒すのはまだ難しいな……なら、せめて文字だけでも)
僕が先ほど閃いた案、それは――僕が別の人物を演じるというものだ。僕であることを明かせないのならば、僕が僕でも誰でもない人物を作ってそれを演じればいい。顔さえ出さなければ嘘だとバレることもないし、僕だと気付かれることもないだろう。声だって、少し低くすれば問題ない。
しかし、その為にはいくらかの準備が必要だった。だから、最も早く出来そうなことからやって、彼女の疑いを少しずつ晴らして行こう……僕はそう考えたのだ。




