夢の真実
―アリア 家 早朝―
「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
お父さんの叫び声が聞こえて、目が覚めた。
「お父さん……?」
ぼんやりとする頭を回しながら、私はまず時間を確認した。時計の針は、午前四時三十分を指し示していた。まだ、目覚める時間ではない。それに、先ほどの叫び声……ただ事ではない気配がした。
「ガアアアアアアッ!」
私が不安の中、ベットから降りた時、人ならざる者の声がした。不安は恐怖へと変わり、自分自身を支えている足が大きく震えだした。
「どうしよう……」
頭の中で、最近の事件を思い出した。真っ黒で不気味なライオンらしき怪物が民家を襲い、人を殺したという恐ろしい事件だ。私には関係ない、だから気にすることはないと思っていた。思っていたのに。
(私が……)
自分が何かしなければ、自分がどうにかしなければ、そんな思いにはなった。だけど、不運なことに他者に伝達する手段は何一つ部屋にはなかった。
「や゛め゛ろ゛ぉ゛ぉ゛!」
お父さんの痛みに苦しむような……そんな声が聞こえた。怖かった。いや、怖い程度で片付けることが出来ない感情だった。でも、それでも震える足は動いていた。自分の部屋を飛び出して、お父さんの叫び声が聞こえた方向に向かってひたすらに。
(助けなきゃ……お父さんを!)
私が辿り着いた先には、お父さんの部屋があった。しかし、そこにドアはない。ドア周辺の壁も、天井も壊れている。そこから、空が見えた。そして、ドアの破片が廊下に散らばっていた。
「あ……あ……」
私の最悪の予感は当たる。恐る恐る顔を上げて、部屋の中を見た。そこに広がる光景を見て、何とか自分自身を支えてここまで歩いてきた足は力を失った。
「ば……化け物!」
思わず、ついて出た言葉。お父さんの部屋を粉々にしている、真っ黒なライオン。だが、そのライオンにあるのは禍々しさだけだ。ライオンと呼ぶより、化け物と呼ぶに相応しかった。
私の声で、ようやく私に気付いた化け物は傷だらけのお父さんを手に持ったまま、顔をこちらに向けた。
「アリアっ! 何故、来たんだっ! 駄目だ……! このままではお前も……逃げろ!」
お父さんだって怖かったはずなのに、私に逃げるように促した。
「嫌! 私にはお父さんしかいないの……大丈夫、私が魔法でっ!」
座り込んだまま、私はその真っ黒な化け物に向かって手を向けた。しかし、
「駄目だ! こいつには並の魔法や魔術は効果がないみたいだ。咄嗟に試してみたが……ぐぅうぅ!」
「お父さん!」
化け物は、お父さんをさらに強く握り締めた。お父さんの口から、血が溢れ出る。
「こいつは……グハッ!」
「嫌だよ……嫌だ!」
化け物はこちらに顔を向けたまま、まるで嘲笑うかのように口を横に広げた。
「私はお前を愛している。だから、アリア――お前だけでも逃げるんだ!」
「お父さん……そんなの……嫌!」
「すまない……」
「嫌……嘘よ、お父さんがいなくなったら、私……!」
その時だった。突然、お父さんが化け物の手の中から消えた。それと同時に部屋中は真っ赤に染まり、私の所まで何かが吹き飛んできた。
「へ……?」
私は恐る恐る、その吹き飛んできた物に目線を落とした。そこにあったのは、お父さんの薄紫色の目玉――
「イヤアアアアッ! イヤ、イヤ、お父さん……!」
それからのことは、よく覚えていない。気が付いたら、外に逃げ出していた。その中で、何故か私が犯人にされていることを知った。どうすればいいのか分からず……私は、たった一人の友人を頼ることにした。それだけが、私に残された唯一の希望だった。




