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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
六章 犯した罪を誤魔化して
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便りを聞いて

―? ? 朝ー

 ちょっとした休憩時間、控え室のソファーに自分は寝転がっていた。だらしないからやめろとよく言われるが、気持ちいいのだから仕方ない。


「……退屈だぁ」


 そんなだらしない格好をしていると、何もしてない時間が退屈に感じてくる。何かをすることで、この退屈な心を誤魔化すことが出来るのに。


「あ〜そろそろ、飽きてきたなぁ」


 この悠久の時の退屈しのぎに、最適なことは何なのか――未だに分からない。何をやってもいずれは飽きる。


(は〜でも、彼……巽君がいるからちょっとは面白くなってきたかなぁ。彼なら、この超つまらない繰り返しの歴史を――)


 人は何度も同じことを繰り返す。沢山の人が死んでも、沢山の人が傷ついても、数十年も経てば何事もなかったかのように、悲劇や惨劇を再び見せる。

 最初は、それも楽しかった。滑稽で、よく出来た茶番を見ているようだったからだ。しかし、所詮茶番は茶番でしかない。


(いずれ……ちゃんと彼と会って話をしたいもんだね。何とかして時間を作らないとなぁ)


 机に適当に置いていた分厚い手帳を手に取って、今後の予定を一応確認する。


「うっわ……スケジュールヤバ。リアルが充実し過ぎだね」


 一日も休みがない。そうでもしなければ、自分が廃人になってしまう未来が見えるから仕方がないが。明日の日程はリサイタルの後、テレビ出演やら会議があるらしい。明後日も明々後日も来週も今月も来月も、びっしりと予定が詰まっている。こんなに、字が書かれている手帳もないのではないかと思わざるを得ない。


(まぁ、充実してても退屈なことには変わりないんだけど)


 自分が常識を超える存在でなければ、過労死していた所だ。退屈だとか感じる余裕があるのは、この人智によって生み出された身体のお陰である。

 この身体になることを望んだのは自分だった。でも、まさか……この身体であることが窮屈で億劫で退屈になるとは、あの日の自分は思いもしなかった。


(でも、彼なら……奇跡を起こせる。この繰り返すだけで、つまらない日常を終わらせることが出来る。誰も苦しめずに、誰も怖がらずに……幸せに包まれたまま)


 目を瞑り、手帳を投げ捨て思いにふけりながら、残り僅かな休息に身を委ねようとした時だった。


「マァちゃん! 大変よぉっ!」


 野太い声が、それを妨害した。


「マァちゃん! 聞いてるの!? あたしよ、あたし!」

「グーグーグー」

「ちょっと、寝たふりしてんじゃないわよ!」

「げほっ!」


 腹部に激痛が走る。寝たふりは通用しなかった。


「……マァちゃん!」

「は~何?」


 仕方なく体を起こして、入ってきたアマータに目線を向けた。相変わらず、ムキムキの体を隠し切れておらず女物のスーツがはち切れそうだ。頭のてっぺんでお団子を作って、顔はかなり濃いメイクをしていて普通なら近寄り難い存在である。


「何? じゃないわよ……ほら、トゥッリスから手紙よん」

「おや……また、何かあったのかな」


 アマータが差し出してきた手紙を受け取り、それに目を通した。


『不穏な気配を感じます。もしかしたら、コットニー地区の奴らかもしれません。巽君に向けられているかは不明ですが、殺意を感じています。一応、ご報告しておきます』


「コットニー地区……動き出したか。まぁ、そうだよね。あれだけ暴れてたらねぇ。ま、そこは彼女に任せるか」

「ねぇ、いいの? あの子に全てを任せるのは危険だと思うのだけど」


 アマータが怪訝な表情で、そう問いかける。


「……見たいんだよ。巽君にとって簡単に外せる枷……そうだと気付いた時、どうなるのか。色々と条件を変えてね。本当は別に守らなくても、彼は平気なんだ。ちょっとした余興だよ、これは」

「あぁ……そう。相変わらず、貴方は恐ろしいわ。魔性の男ね。そこがスキよ!」

「お、あ……いや、うん」


 休養はもういらない、一刻も早くここから立ち去りたいそう願った時――奇跡が起こる。


「マイカ様! そろそろ……」


 遠くから、自分を呼ぶ声が聞こえたのだ。普段だったら憂鬱だが、今この瞬間はお祭りだ。今すぐにでもピアノを弾きたい気分だ。


「オッケー! 行くよ! アマータ、すぐ帰れるように片付けといて。あ、適当にスケジュール空けといて! じゃあね!」


 彼……いや、彼女と長時間一緒にいたくない。気が付くと、体が勝手に走り出していた。

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