迷惑をかけて、かけられない
―レストラン 朝―
(トーマスさん達に子供がいたのか? 僕と似ているということは、同い年くらいなんだろうか? でも、会ったこともないし、そういう話すら聞いたことないよなぁ……)
厨房に向かいながら、僕はあのおばあさんから聞いた話を思い返していた。
(どこか遠くにいるんだろうか? 僕みたいに留学してるとか、一人暮らししてるとかなのかな?)
トーマスさんやデボラさんは、顔立ちがくっきりとしている。いわゆる、西洋人顔という奴だ。無論、僕はその系統じゃない。
しかも、僕は昔、中性的だとか男女どちらでもいける顔だと酷い評価を受けたことがある。僕に似ているという点から考えるに、彼もそうなのだろうか。だとすれば、同情する。
(気になるけど……もし、何か複雑な事情とかあったらやだなぁ。心の中に留めておく程度にしよう)
「邪魔だよ、さっさと歩きな!」
考えながら歩いていたせいで、少しペースが落ちていたみたいだ。背後から来ていた別の中年のパートの女性に、怒られてしまった。
「す、すみません!」
「ちんたらちんたら歩いてんじゃないよ、まったく! どうして、こんなパセリをずっと雇い続けてんだか……こっちの仕事が増えるだけだよ」
彼女は舌打ちをして、僕を一度強く睨んでそのまま厨房へと消えていった。そう言われてしまったのがショックで、思わず足がとまってしまう。
(パセリ……か)
トーマスさん達は、僕が何をやらかしても笑顔で許してくれるし、心配もしてくれる。僕がここに居続けることを望んでくれている。
だけど、他のここで雇われている人達はそうじゃない。皆、僕を疎んでいる。無理もない、それが普通だ。最初ここに来た頃は、あまりにネイティブ過ぎる言葉に上手く対応出来なくて接客すらままならなかった。それどころか、お客さんの所にほとんど料理を運べなかった。今以上に、迷惑ばかりかけている存在だった。
(頑張ってるんだけどな……まだ、やっぱり邪魔なんだ)
悔しいけれど、返す言葉もない。まだ、今日は皿を一枚も割っていないどころか、聞き取れない単語があった訳でもない。間違った注文を伝えてもいない。
だが、僕が頑張っていることは皆にとっては当たり前のことなのだ。だからこそ、出来ていない僕を見て腹を立てるのだ。つまり、僕はまだ皆が求めている範囲にすら達していないということだ。
(認められなくてもいい……でも、迷惑だけはかけたくない)
『迷惑をかけない人間なんていねぇ。迷惑をかけて当たり前だ。お互い様なんだよ。迷惑をかけて、かけられて生きてる』
あの日、ゴンザレスにかけられた言葉を思い出した。その言葉で、僕はかなり救われた気がした。真っ暗で何もなかった世界に、一筋の光が差した気がした。だが、今はよく分からなくなっていた。
(僕は皆に迷惑をかけているけど……皆に迷惑をかけられていない。だから疎まれる)
自身の情けなさに、思わずメモを持つ手に力が入った。
(……もうそろそろ、彼女が戻って来るな。また何か言われる前に、注文内容をトーマスさん達に伝えよう)
僕は唇を噛み締めて、再び歩を進めた。




