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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第四十六章 少し先の僕達の未来
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二人で共に

―ゴンザレス 武蔵城中庭 夜―

 夜になっても、宴は続いていた。食い疲れた俺は中庭に出て、ぼんやりと夜空を眺めていた。


(今晩も、星が綺麗だな……)


 星は、いつも瞬いている。この世界は、あまり曇らない。だから、ほぼ毎日と言っていいほど観測出来た。それなのに、つい最近まで星の研究が行われていなかったのが実に惜しい。きっと、これから俺達の世界を追い越すほどのスピードで発展していくだろう。


「こんな所にいたのか、仮面の王。主役なのにいないからどうしたのかなと思ったよ」


 人が折角、自分の世界に浸っていたというのに、空気を読まず一人の男が乱入してくる。


「あんなに楽しそうに料理を頬張っていたじゃないか」


 しかも、図々しく隣に座ってきた。


「食べ飽きたよ。ずっと食ってる」


 全種類の料理を制覇した。プロが作ってるだけあって、美味しかった。材料がユニコーンの何たらとか、毒抜き何とかであることさえ忘れれば最高だった……が疲れてしまった。


「なら、話せばいいじゃないか。皆、談笑会をしてるよ? そろそろお開きになっちゃうし……皆が、こう集まる機会は中々ないのに」

「……いや、いい」


 久々に顔を合わせた皆は、元気そうで安心した。けれど、あまり楽しくはなかった。

 

「らしくないなぁ。主役不在じゃ、何の為の宴か分からないよ」

「なんつーか……俺自身の為に開かれていない気分なんだよ」

「え? あんなに食べてたのに」

「腹が減ってたからな。問題はそこじゃないんだよ。どいつもこいつも、俺のことを仮面の王呼ばわりするから……自然と気を引き締めちまうんだよ」


 仮面の王は、別に俺から名乗り始めた訳じゃない。通称というか、称号みたいなものだ。


「あれで気を引き締めていたのか……」

「あ?」


 当たり前だ。飄々としながらでも、敵を圧倒する。気を引き締めておかないと、出来ることではない。あれを普通にやっていると思われていたらしく、かなりイラッとした。


「いや、何でもない。しかし、ゴンザレスと呼ばないと決めたばかりだ。本名で呼べと?」

「そうは言ってない。この世界の巽は、お前だし。そんな図々しいことは求めていない。それに、本名で呼ばれている所を馬鹿共が聞きつけたら騒ぐだろ」


 俺の正体を探ろうとしつこい奴らが、あちらこちらにいる。そろそろ、手を出しても許されるんじゃないかと感じている。仮面の王というのは、俺にとって使命に等しいもの。日常を過ごす中で呼ばれても、嬉しいとは言えない。


「じゃあ、どうすれば君の気持ちは晴れるんだい?」


 せめて、親しい奴らでも心を許させて欲しい――と、気恥ずかしさを堪えながら願った。


「その……名前をくれないか……」

「え? はっきり言ってくれる?」


 本当に聞こえなかったのか、俺をからかって言っているのか、どっちにしても俺は恥ずかしくて仕方がない。体が熱くなっていくのを感じながら、絶対に聞こえるように叫んでやった。


「だから! 俺に名前をくれと! 言っている!」

「名前? 僕が、君に?」

「そう言っただろ! 嫌なんだよ、仮面の王って親交ある奴に言われるの。別に、俺が名乗り始めた訳じゃないのに。闘技場の称号的なあれで周りが勝手に呼び始めたのを、ちょうどいいから使ってるだけなんだよ。だからその……なんか、寂しい」


(N.N.がエースって名前を貰ってから、嬉しそうにしていた理由が何となく分かる。自分という存在が認められている感じがするんだ)


「ハハッ」


 その理由が意外だったのか、巽は笑った。


「わ、笑うなよ。こっちは割と真剣に言ってんだ!」

「ごめんごめん。そうだよね。う~ん、でも僕はあまりセンスが……あっ!」


 すると、突然閃いた様子で手を打った。


「タミという名があるじゃないか!」


 その顔には、自信が漲っていた。


「え? いや、それはてめぇの偽名だろ。まさか、その偽名を俺のこの世界での正式な名にしろと?」


 こいつが、身分を隠す際に使用していた名だ。それを、俺にくれるという。


「偽名と言えば、そうだけど……僕は結構気に入ってたんだ。元々は、美月がくれたものだ。センスに問題はないはずさ。それに、この名は結構便利がいいよ? タミという存在しか知らない人もいるしね。どうだろう? 悪くないと思うんだけど。闘技場の外で名乗るには、最高じゃないかな」


(知っている奴がいる方が問題だと思うんだが……顔が全然変わってねぇってなって、気味悪がられるかもしれねぇじゃん)


「知ってる奴に、老いてねぇって思われるじゃんか……」

「どうにでも理由は作れるだろ? 君、得意だし」


 嘘つき名人呼ばわりされるなんて心外だ。俺は、演技上手なだけなのに。


「失礼な奴だな……マジで。ま、いいや。タミを名乗れば、それで呼んでくれるんだな?」

「勿論だよ。皆にも、ちゃんと伝えておくから」


 巽は親指を立てて、ウィンクをする。しばらく見ない内に、かなりお茶目になった気がする。これも結婚し、子供が生まれた影響なのだろうか。


(頑張ってるおじさんって感じだぜ……)


「……当然だな。ま、そんなにここに来ることもないし、呼ばれることもないだろうが」

「そう何度も宴を開いていたら、反感を買ってしまう。でも、君なら瞬間移動も出来るから、いつでも来れるでしょ」


 闘技場は、大炎上した遊郭の代わりの財源として建てた物。そちらに出費がかさんでしまっていては、本末転倒。しかも、別にやらなくていいことだし、アピールのやり過ぎは良くない。


「まぁ……そうだが。ま、俺が来るより、お前らが来た方がいい。今度、闘技場に来たら……鳥肌立たせてやるからよ。俺が、パフォーマンスしながら鍛える様を目に焼きつかせてやる」


 最近は、骨のある奴が集まってきた。育てがいがあるというものだ。


「でも、あまり気負うなよ、国に関わる厄介事は僕の役目だ。少しは信頼してくれ」

「どうしようかな? 全てが水の泡とか笑えんからな」


 死に物狂いで頑張った世界が、いともたやすく終了なんて笑えない。小鳥にも合わせる顔がなくなってしまう。


「信頼する材料が皆無だということは自覚している。が、これも王の成長の為だと見守ってくれないか」


 自覚があるなら良かった。本当に、子守りをしている気分だった。旅立ちを見守るのも、保護者の務めか。


「ま、俺、子守りとか見守りとか得意だから。別にいいよ」

「ハハ……ありがとう。という訳で、今この瞬間をもって君は完全に影武者卒業だ。この国にいたいと望む限り……一国民として尊重しよう。仮面の王として、タミとして存分に満喫するといい」


 そう言って、巽は拳を突き出した。たまには、こういうノリに乗ってやるのも悪くないだろう。


「……ふん、悪くねぇ」


 拳と拳を突き合わせて、互いに支え合うことを誓った。未来が、これから先の世界にずっとあることを願いながら――。

次回最終話になります

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