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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第四十六章 少し先の僕達の未来
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宴の時間

―武蔵城 夕方―

 宴の余興とマスコミへの開放時間も終わり、気の許せる者達との食事会が始まっていた。仮面の王は、テーブルに並べられた沢山の料理を美味しそうに頬張っていた。そんな彼の隣で、閏が永遠と星についての解説をしていた。


(君は、ちゃんと求められてるんだよ。世界どうこうなんて関係ない。それを分かってくれるかな……なんやかんや楽しんでくれているみたいだけど、どうだろう。まぁ、閏の話は聞いてないんだろうけど……)


「――だからね、星というのはね、僕らの生活に密接に関わってくるものなんだ。星を知る者が、世界を知るんだ。何故、今までこのことに人類は気が付かなかったんだ? 電気と片付け、探求しなかったことが疑問だよ。星に失礼だと思わない? こんなにも可能性があるというのに。ゴ……仮面の王さんも、そう思うよね!?」


 仮面の王の正体を知る者達には、ゴンザレスという名で呼びかけないようにとお願いした。完全興奮状態の閏も、それを実践してくれていた。


「あーうん、そうだそうだ。うんうん」


 次はどれを食べようかと見回しながら、適当に相槌を打つ仮面の王。


「聞いてる!?」

「聞いてる聞いてるー、星ってすごーい」


 これっぽっちも興味がないっていう顔だった。一応、僕に星という概念を与えてくれたのは彼なのだけれど。


(この世界にいる誰よりも詳しいはずだから、一々聞かなくてもって感じなんだろうな……)


「なら、僕が今まで説明したこと、全部言ってみてよ!」

「は? そんな面倒なことする訳ねぇわ」


 ようやく、彼は閏に視線を向けた。


「やっぱり聞いてなかったんだ。僕と料理、どっちが大事なの」


 どこかで聞き覚えがあると思ったら、最近、若者に人気の曲で使われていたフレーズだ。元々は確か「やっぱり覚えていないのね。私とお金どっちが大事なの」だったはず。しっかりと記憶し、見事な改変だ。星にしか興味ない閏が聞いているのを想像すると、申し訳ないけれど少し面白いなと思ってしまうが。


「料理に決まってんだろ、気持ち悪い。そんなに聞いて欲しいんだったら、聞いて貰えるように工夫しろっての。一方的にああだこうだ言っててもね、興味なんて持てねーの。プレゼンテーション能力身につけろよ。理解して欲しいんだったらな」


(僕……いや、皆が言いにくいことを直接言ってのけるなんて……)


 思わぬ反撃を受け、言葉を失う閏。


「昔に比べれば、自己主張するようにはなったが……まだまだだな。星というコンテンツを広げていきたいなら、共感して貰えるような伝え方が出来るように鍛えることだな。つまらん話をぺらぺら喋るなよ。あ~ここテーブルの料理、大体食ったかな。じゃっ」


 溜まっていた苛立ちを吐き出した彼は、まだ見ぬご馳走を目指して別のテーブルへと向かう。


「僕の話がつまらない……星の話なのに……」


 心ここにあらずといった様子で、閏は言葉を漏らす。


(ちょっと可哀そうだな、声をかけてみるか)


 と、僕が一歩踏み出した時だ。


「お父さん!」


 背後から愛おしい息子の声が聞こえ、慌てて振り返った。


「惺斗!?」


 惺斗は、玄兎の腕の中で満面の笑みを浮かべていた。


「なっ……」


 惺斗が、僕以外の男性に抱っこされているのを初めて見た。僕が複雑な感情に苛まれているとも知らず、彼は笑顔で挨拶をする。


「こんにちは!」

「……どうして、惺斗を君が抱っこしているんだ?」


 必死に笑顔を作り、その理由を尋ねる。

 

「お願いされたもので……断る理由もないですし。あ、あれ? なんか……怒ってます?」


 ところが、それが逆に恐ろしかったらしい。


「いやいや、怒ってなんかいないよ。惺斗が望んだなら仕方がない、僕を差し置いて、君にせがむことだってあるだろう」

「やっぱり怒ってません……?」

「ハハハ、怒ってないよ。だから、早急に惺斗をこっちに」


 これは嫉妬、こんなにも醜いものはない。しかし、自分ではどうにも出来ない感情だった。とにかく、この現実が早く消えてなくなってくれたら落ち着くと思った。


「嫌だ! せいちゃんは、玄兎がいいの!」


 しかし、差し出した手を惺斗は叩く。今まで受けたどんな攻撃よりも痛かった。


「え!? あ、今、今だけですよね~?」


 惺斗は、こんなことをするような子じゃない。何か吹き込まれたとしか思えなかった。


「君は……惺斗に何をした……」

「な、何もしてないですよ?」

「そんなはずはない! そうだったとしたら、僕の優先順位がただ下がったってこと――」


 彼に詰め寄り、真意を探ろうとした時だ。背後から、耳を亜樹に掴まれた。


「もー! 変に絡まないっ! ごめんね、もう! どうしてこんな親馬鹿になっちゃったんだか……情けないから、こっちにお母さんと一緒に来なさい!」

「痛い痛い! 引っ張らないでよ、皆が見てる」


 気が付けば、皆が心配そうに僕を見ていた。


「とっくに見てたわよ。それに、子供に狂う哀れな夫を引き留めるのも妻の役目よ。ちょっと頭を冷やしなさい」


 耳を引きちぎられそうになりながら、僕は出口の方へと連れ出される。


「仲がいいこと」

「皐月も、あんな感じの夫婦になれたらいいなぁ。じゃあね、兄様~」


 そんな僕らの様子を、美月と皐月は羨ましそうに見送るのだった。

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