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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第四十六章 少し先の僕達の未来
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黄金の果実

―玄兎 武蔵城 夜中―

「――どこへ行っていたのですか」

「あっ」


 ひっそりと帰って来たつもりだったけれど、待ち伏せされていたらしい。正規の入り口から入った訳でないのに、何故分かったのだろう。少し怖い。これが、女の勘という奴なのかも。


「無断外出は禁じられているはずです。外出するならば、届け出を出しなさいと何度言いましたか」


 鬼の形相で、小鳥さんは俺に詰め寄る。


「ええっと……その、すみません。手続きが面倒で……」


 とりあえず、笑みを浮かべて場を和ませようとした。


「規則は規則です。例外はありません。今後、このようなことがあれば口頭注意だけでは済まないと思いなさい」


 が、お怒りモードの家政婦長には通用しなかった。


「はい……」


 俺だって、無断外出したくてしている訳じゃない。強いられているから、抗えないから致し方なくやっている。反省もくそもないけれど、とにかく肩を下げて俯いておく。態度で示すことが重要だ。


「はぁ……」


 彼女は、怒りと悲しみの混ざったため息を吐く。


(なんか申し訳ないけど……こういうことも含めて、俺の仕事だし)


「貴方には、とても期待しています。ですが、それで特別扱いすることは出来ません。初の外部雇用ということで、苦労も人一倍だということは分かっています」

「え?」


 普段だったら、ここで話は終わる。しかし、流石に回を重ね過ぎたか小言が続いた。


「それに、そう年も離れていない私に指導されることが不満であるのかもしれませんが、理解して下さい」

「別にそういう訳では……ちょっと街に出て、ぷらぷらしてみたかったって感じで……特別な不満がある訳じゃないんです」


 俺だって、大人しく城にいれるものならいたい。誰かを貶めるような真似も、責任者の彼女を困らせるようなこともしたくない。

 でも、俺に自由はない。既望教の為に動き、働き、尽くすことだけが役目だ。


「使用人としての自覚が、また足りないようですね。貴方の行動によって、国の信頼が崩れてしまうこともありうるでしょう」

「肝に銘じます」


(かなり疑われているみたいだ。ここから、どうやって信頼を得ることが出来るんだろう。俺には、全く分からない。あの人達は考えてくれるんだろうけど……このままだと、迂闊にあの人達に呼び出されても、解雇されちゃうだけなんだけど)


「もう少し真剣に――」


 と、まだまだ続くと思われたお説教だったが、思わぬ邪魔が入った。


「玄兎み~っけ!」


 どこにいたのか、突然横から惺斗様が姿を現したのだ。


「わっ!? 惺斗様!?」

「いつの間に……」


 彼女も気付いていなかったようで、かなり目を丸くしていた。


「抜き足差し足忍び足したんだよ~。小鳥にも玄兎にも気付かれなかったなんて、せいちゃんかっこいいー!」


 惺斗様は、飛び跳ねて喜んだ。


「そうでしたか、ですが……もう寝る時間は過ぎていますよ。夜更かしは体に毒です。大きくなれません」

「もー大丈夫! それより、玄兎! こっち来て、こっち!」


 彼女の言葉を軽く受け流し、彼は俺の手を引いて歩み始める。そんなに強い力ではなかったけれど、これはされるがままにしておくべきだと判断した。


「え? あ、はい……と、という訳で失礼します!」


 戸惑うふりをしながら、会釈して彼についていく。


(ラッキーって奴だ、まさに)


 そして、ひっそりと静まり返る庭園に出て、彼は足をとめる。


「えへへ……」

「どうされたんですか、急に」

「あのね、凄いんだよ。せいちゃん、ちゃんとあの石使えたんだよ」


 目を輝かせ、俺があげた月の石を誇らしげに見せる。


「……へぇ」


(あの月の石を使っても生きている……なるほど、資格はあるらしい。なら、次の段階へと移行しないと)


 月の石――それは、月の光に反応して力を発する石。持てば、魔力補助具として、石を削って飲めば魔力補強剤になる。飲めば飲むほど、溜め込めば溜め込むほど強くなる。が、とてもそれは危険な道具だ。その石を使えば死ぬ者が多数。だから、英国では使用禁止されたという。

 そんな危険物を持つだけでなく使用出来たとなると、次なる器の育成候補として相応しい。他は、試す必要はない。流石は、息子だ。


「それは、とても素晴らしいです。流石は、惺斗様。では、次はその石を食べましょう」


 面倒ごとはもう御免だと、説明をすっ飛ばした。


「え!? それは無理だよ、死んじゃう! この石、お口にも入らないよ!」


 が、それでは流石に伝わらなかった。なので、興奮を抑えて子供にも分かるように噛み砕いて伝える。


「削れば良いのです。削り、月の粉にするのです。それを、毎夜の寝る前に飲み続けるのです」

「なんで~?」

「月の力は、惺斗様を強くします。それこそ、御父上……巽様にも負けないくらい。かっこ良く、なりたいのでしょう?」

「うん!」


 無垢な笑顔で、彼は頷いた。憧れ、それは誰にでもあるものだ。申し訳ないけれど、それを利用させて貰った。


「なら、我慢しましょう。月の石がなくなった頃には、惺斗様はとても強く……つまり、かっこ良くなれますよ」

「わーい! これも、内緒?」


 彼は丸め込めやすい。無知は果実、彼の為にあるかのような言葉。大切に育てられ過ぎたからこそ、箱の中からしか世界を見ていなからこそ。


「えぇ、俺と惺斗様との約束です」

「皆、びっくりするぞー! わくわく……」


 武蔵国という巨大な果樹園で、特に大きな木に宿る黄金の果実。決して――腐らせてはいけない。

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