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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第四十六章 少し先の僕達の未来
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真の王者

―闘技場 夜―

 背中から、雪選手は綺麗に倒れた。それを確認して、審判が旗を上げる。


「決まったあぁぁぁっ! 力技で、雪選手の決め技を押し返した!」


 自らが放った魔術に包み込まれ、戦闘不能に陥ったと判断されたのだろう。現に、彼女はぴくりとも動かなかった。気絶しているようだった。


「かっけぇぇ!」


 絶対王者の力を目の当たりにして、観客達は酔いしれていた。


「意識を失った雪選手は、治療チームによって運ばれていく!」

「よく頑張った!」

「素敵だったわ!」

「ずっと応援してるからねー!」


 敗北し、運ばれていく彼女にも熱い拍手が送られた。屈せず、諦めなかった彼女の姿勢は称賛に値するものだったからこそだ。


「こんなに素晴らしい試合を、生で見れた俺達はマジで幸せ者だ! ありがとう!」


 司会の彼も立ち上がり、彼女とゴンザレスに拍手を送った。


「……ふん、どういたしまして」


 ゴンザレスは、どこか照れ臭そうに言葉を返した。


「王座を死守した感想は!?」


 彼は身を乗り出し、目を輝かせながらそう投げかけた。


「雪……だったか? 強い子供だったな。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけだがひやひやしたぜ。ま……当然ながら、俺の方が強いけどね……」


 と、強気な発言だったが、ゴンザレスは力を失ったように崩れ落ちた。


「あの仮面の王が膝をついた!?」

「あんなに疲れてる仮面の王を見るのは初めてだわ」

「あの子、凄かったのね……」


 こんな状態に陥ったのを見るのは初めてだと、皆はどよめいた。その時、どんという轟音と共に周囲が光った。この音はもしやと空を見上げると――。

 

「夜空には、祝福の花火が打ち上げられる! 今宵は、いつにもまして美しく見えるぜ!」


(綺麗だ……そうか、たまに見るこの花火は王者を祝う為のものだったのか)


「はっ!? 何!? 何の音!? 何かあったの!?」


 その音に驚いて、ようやく亜樹が目を覚ました。よだれを垂らしながら、寝ぼけ眼で闘技場を見回す。


「終わったんだよ、大会が」

「へ……終わった? へぇぇっ!? 本当だ、もう夜になってる!? 嘘、嘘ぉ!?」


 何とも間抜けな反応だろう。周りが騒がしくて、こっちに興味がなくて良かったと思った。おしとやかというイメージが世間に知れ渡っている以上、この有様は衝撃過ぎる。騙していたと、変に騒がれかねない。


「誰も見てなかったから良かったけど、一応人前に出ているという自覚を持ってね。僕以外には見せないで……あんな間抜け面は」

「どきっってしかけたけど、間抜け面って酷いっ!」

「それ以外に、言い表しようもない顔だったからさ……それより、口の端から垂れてるそれもちゃんと拭いておいてね。みっともないからさ」

「えっ!? よ、よだれまで垂れてる! もー! 起こしてよ、馬鹿!」


 彼女は羞恥と怒りで顔を真っ赤にしながら、僕の胸を何度も強く叩いた。その様子を見て、美月はぼそりと呟いた。


「騒がしい子ねぇ、寝起きで普段のスイッチも入れられなくなっちゃって。ま、私はそっちの方が好きだけど」


 ただ、その声は当の本人には届いていなかった。


「これにて、今回の大会はお開きだー! 皆も来てくれてありがとうな! また会おうぜ! ぐっばいっ!」


 そして、仮面の王戦は余韻を残したまま、幕を閉じるのだった。

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