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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第四十六章 少し先の僕達の未来
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最後は

―闘技場 夜― 

「なんじゃ、ありゃぁ!?」


 雪選手の手は、大きな口を持った化け物の植物のようなものに変異する。


「食らいつくしなさい!」


 その声に反応し、その化け物は口を開き――魔力の塊を捕食した。ゴンザレスの勝利を確信していた会場は、予期せぬ出来事に沈黙に包まれた。


「雪選手、耐えきった! すげぇ! 決め技を、技で丸呑みだー!」


 だが、それも束の間、静寂を興奮と熱狂が引き裂いた。


「嘘、信じられない!」

「うぉぉぉっ! やれやれ! やってやれぇ!」


 絶対王者の揺らぎに、皆が心を奪われていた。


「はぁ……はぁ……」

「こりゃ驚いた……案外やるじゃねぇか。あの二番手より凄い」


 そう言い、ゴンザレスは敬意など微塵も感じさせない拍手を送った。


「お褒めに与り光栄です……くっ!」


 彼女はおぼつかない足取りで立ち上がるも、変異した手を押さえ苦痛に表情を歪めた。


「だが、自分の身は自分が一番大切にしねぇといけねぇぞ?」


 そんな彼女を見て、やれやれと首を振る。


「貴方みたいな人に、そのようなことを言われても説得力なんてないんですよ」

「あっはっは! それもそうか……でも、これで勝負は終わりじゃねぇ。恐怖の時が、後に延びただけのこと。その……片手がぶっ壊れた状態で、お前は俺に立ち向かわなきゃならんのだぞ?」


 魔術を発動した影響で、彼女の手は青白く力なくぶらりと垂れ下がってしまっていた。

 

「その通りです。ですが、私もただ右手を壊した訳ではありません。この蠅地獄は食らった術に込められた魔力を、私に与えてくれるんです。どうやら、随分と力を込めて下さっていたようですね」

「ほぉ……それで、壊れた右手を回復でもするつもりか?」


 奪った魔力で、その壊れた右手を治癒することは容易いだろうと思った。しかし、彼女は首を振って否定する。


「いいえ、後でこれはいくらでも治癒出来ます。今、ここでしか出来ないことの為に使わせて頂きます」


 その宣言に、会場は騒めく。とても強気な発言だ。


「温かい声に励まされ、再び立ち上がった雪選手! 何やら仕掛ける様子!」

「やれるもんならやってみればいいさ。全部受け流してやるからよ!」


 ゴンザレスも絶対王者とて、魔力も体力も無限にある訳ではない。奪われた分も考えると、彼もここが正念場だ。


「恐らく、これが運命の瞬間となるだろう! 雪選手の攻撃が通るか通らないか……それで全てが決まる!」

「公衆の面前で受けた屈辱……晴らさせて頂きます!」


 彼女は怒りを露わに、左手で円を描きながら唱える。


「雪よ踊れ、月よ煌めけ、咲き誇れ幻の雪月花!」


 すると、吹雪が起こり視界を曇らせ、体が凍えるほどの冷気が会場を包み込むんだ。さらに、月が彼女を照らし、力を与えていく。そして、栄養満点だと言わんばかりに見慣れない白くぼんやりと光る花が彼女の前に現れる。


「出た! これは、雪選手の決め技だ! 雪が降りながらも、満月の見える夜にしか花を開かないという幻の花をモチーフとしているそうだ! 北国では伝説の花として語り継がれているとか! そんな幻想的な花だが、あれに包み込まれると立ち上がれなくなるほどのダメージを負う! あれで戦闘不能になった選手は数知れず! この技は、王に通用するのか!」


 力の全てが、その花に流れていくのが分かる。一か八か、ここに全てを賭けるようだった。


(注ぎ込める限りの力を、全て注ぎ込んでいる……もう後戻りは出来ない)


「大人しく包み込まれなさいっ!」


 彼女が左手を押し出すと、その花は光り輝きながら真っ直ぐにゴンザレスに向かっていく。


「悪くないだろう。全力の相手には、全力で応じる。弾き飛ばしてやるよ。スター・リフレクトッ!」


 彼は防御に徹しながらも、彼女の力を利用するつもりだった。奪われた腹いせだろうか。しかし、その思惑は叶わなかった。


「おぉっと!? 反射の術を使ったが、雪選手の力が大き過ぎて反射が機能していない模様! これは、もしかしたら、もしかするかもしれないっ!」


 ゴンザレスの技が通用しなかったという事実に、皆の熱気が高まっていくのが分かる。


「はぁぁぁぁっ!」


 絶対に決めるという彼女の思いが、その叫びだけでも伝わってくる。徐々に、ゴンザレスの足が下がっていくのが見える。さっきとは真逆の展開だ。絶対王者の僅かな揺らぎ、人知れず僕も興奮していた。


「反射の術の弱点はこれなんだよなぁ……自分より弱い力しか跳ね返さねぇから! なら、もうしゃーねぇ! そのまま押し返してやるわ! シールド代わりにはなってるみてぇだし! 押せ押せじゃあぁああああっ!」


 流れは完全に、雪選手に向いていた。しかし、僕にはそれすら彼が楽しんでいるように見えた。そして、会場がこれまでにない熱狂に包まれていく。


「俺を……俺を舐めてんじゃねぇええ!」


 全力には全力で応じる、その言葉に偽りはなかった。彼の全ての力がシールドに流れていき、ついに後退していた彼の足がとまった。


「最後は気合と根性じゃあぁぁっ!」


 そして、嘘のような勢いで前進し――力技で術を押し返した。

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