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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
六章 犯した罪を誤魔化して
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夢か現か、真実は

―街 朝―

(うぅ……吐きそうだ)


 朝食を食べ終え、支度を済ませた僕はレストランに向かっていた。クロエは、いつも通りに美味しそうで健康的な朝食を既に用意してくれていた。勿論、それは嬉しかったしありがたかった。普段だったら食欲もそそられて、満腹であったとしても自然とお腹が空いて、その朝食を喜んで食べていただろう。

 ところが、今日はそうではなかった。美味しそうには見えたが、食べたいとは思えなかった。胃に、物をパンパンに詰められているような感覚があったからだ。

 

(食べ物を見るだけで吐きそう……これから、食べ物しか見ないのに)


 食べ物を無駄にしてはいけないという思いがあったのと、クロエとの変な溝を広げてしまう訳にはいかないという思いだけで何とか食べ切った。食べる場面で、クロエが僕の顔が見える所にいなかったのが幸いだった。

 その無理をしたせいで、僕の胃は限界を超えていた。何かきっかけがあったら、多分吐き出してしまう自信がある。それが何なのかは、今の僕には分からない。分からなくていいが。


「ねぇ、今朝のニュース見ました? 奥さん」

「あぁ、見ましたよ!」


(何かあったのか?)


 そんなことを考えながら道を歩いていると、家の前で世間話をしている中年の女性達の会話が聞こえてきた。


「物騒よねぇ」

「本当、夜は出かけない方がいいかもしれませんね」

「鍵もしっかりと閉めないとねぇ」

「でも――」


 僕の耳に入ったのは、そこまでだった。気にはなったが、立ち止まって堂々と話を聞くのはかなり恥ずかしい。バレたら変人扱い待ったなしだ。


(もし……もしも、そのニュースが僕のことだったとしたら……)


 悪いニュースだったのは間違いない。夜に外に出ることが危険で、鍵も閉めておく必要がある事件が起こった。


(いや、もしかしたら違うかもしれない。違う可能性の方が高いじゃないか。この国は広いし、人間は沢山いる。強盗かもしれない……まだ、分からない)


 どうか、夢は夢であって欲しい。ただの悪夢であって欲しい。僕は誰も傷付けていないし、殺してもいない……そう思いたかった。思わなければ、僕はこうやって歩くことすら出来なくなりそうだった。


(アリアに直接会いたいが、家も分からなければ他の情報も分からない。呪術の授業のある日には確実に会えるが、それ以外の日は運だ。会えたとしても、こんなことを聞く度胸が僕にはないぞ……)


 夢か現か、真実を知るのも怖いが、知らないのも怖い。夢かもしれないし、夢でないかもしれない。もし、現実だった時……彼女にどう顔向けすればいいのか。


「おやおや、久しぶりじゃないかい。タミ」


 その声にハッとして我に返ると、僕は無意識の内にレストランの前に来ていた。僕の目の前には、デボラさんが穏やかな笑みを浮かべて立っていた。その手には、箒が握られている。開店前の掃除をしているようだ。


「おはようございます。あの、その……ご迷惑を……」

「な~に言ってんだい! 前までのあんた、顔色悪かったし……心配してたんだよ。しっかりと休養が取れたみたいで良かったよ。健康的な顔色をしてる。もう大丈夫なんだね?」

「はい……」


 僕は、どう足掻いても心配させてしまうらしい。まぁ、確かにあの頃は寝る間もないくらい忙しかった……いや、課題を後回しにしてたから自業自得だ。猛省する。


「ったく、体が資本なんだから無茶はいけないよ。休みの連絡をくれたのが、女の子から電話だったって聞いたけど……彼女かい?」

「か、彼女!? そんな訳ないです!」

「そうなのかい? まぁ、いつか出来たら紹介しておくれよ。中で主人が待ってるから、挨拶してやって。ず~っと心配してたんだから」

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