歴史の一ページ
―闘技場 夜―
正面から二つの魔力の塊を食らった彼女は床に倒れ伏し、体を震わせていた。
「……うぅ」
「我ながら、最高に決まった……」
ゴンザレスは、かっこつけて髪を掻き上げる。変な面のせいで、かっこ良さは皆無に等しいというのに。
「目がイカれちまうかと思ったぜ! そして、やはり立っていたのは王だ!」
「あんな攻撃食らっちゃあね……」
「意識はあるみたいだけど、流石にもう駄目だろうなぁ。このまま、立ち上がれなくて終わりだ……やっぱ、王は王だな」
「これは、雪選手立ち上がれないかぁ!?」
歴史的瞬間には立ち会えず、また同じ日々が続くのみ。同情と失望が闘技場内を埋め尽くしていくのが分かる。
「ハッハッハ! 無理無理、所詮は目立ちたがり屋の小娘よ。ま、二番目よりはかはちょ~っとしぶとかったかなぁって感じ。さ、次目覚める時は治療室にしてやるよ」
豪快に笑い、彼は指を鳴らしながら歩み寄る。
「おっとー! お馴染みの決め技宣言だー!」
彼女はもう立ち上がれそうにもないというのに、トドメを刺すという。
「な……!? 何もそこまでする必要ないんじゃないのか? このままタイムアップだろう!?」
思わず零れた言葉、それに対して美月は冷静に答える。
「平等に無慈悲……それが、彼の戦い。希望も可能性も残さない。あいつは悪役を演じている。中途半端なことをしやしないわ」
「そんな……」
むごたらしい光景を、見届けなければならないのかと心を痛めていた時だ。
「――雪ッ!」
観客席のどこからか、懐かしい声がした。
「うちらがいる! うちらは知ってるわ、貴方がとても強いってこと! とっても頑張ったってこと!」
「え……この声?」
(この声、間違いない。睦月だ。見に来ていたんだ……そうだよな、見に来ない訳がないよね。ずっと彼女を支えてきたんだから。でも、まずい。美月も違和感を感じている!)
どんなに聞いていなくとも、この声を忘れるはずがない。美月は、睦月を死んだと認識している。それでも、声の主を探していた。
「雪選手の支援者の応援が響く!」
「雪は強ーい! すっごーく出来る子さー!」
(この声は、東だ! 気持ちは分かるけど、もう黙っていて欲しい! この声がきっかけで、睦月が見つけられてしまったら最悪だ。国の為だけじゃない。二人の幸せの為なんだ。これ以上の注目は、お互いの為にならない……!)
睦月と東という人物は、遠い昔に死んだ――それがこの世界の歴史。これ以上、二人のことには触れて欲しくなかった。
すると、タイミング良くゴンザレスが言葉を発する。
「ふっ、何をごちゃごちゃとほざいてんだよ、外野がさぁ……支援者だか保護者だか何だか知らねぇけど、その前で何もかも終わらせてやるよ! 折角だ、星の中に月があるってことを証明してやる! ジャイアント・インパクトッ!」
ゴンザレスは発光しながら、倒れ伏す彼女に突進していく。その時、彼女の手だけが起き上がる。そして――一言呟いた。
「――蠅地獄」




