流れ星
―闘技場 夜―
雪選手が先手を取ろうとした時、それを読んでいたかのようにゴンザレスは素早く周囲を移動し始めた。龍の目では、ゴンザレスの動きは残像によって読み取れてはいた。だが、彼女の目では追い切れていない様子だった。
そんな中、ゴンザレスは余裕いっぱいに話しかける。彼女も遅れながらも気配を追い、何とか言葉を返していた。
「それにしても、お嬢さん。俺は驚いたよ。いつもの二番男じゃない奴が出てきたからさ」
「二番男……あぁ、さっきの方のことですよね」
二番男だけで、通じてしまう強烈さがあの人にはあった。実力の頂点には立てないのだとしても、キャラクター性の頂点には立てるような気がする。
「そうそう。あいつさぁ、俺と戦う頃にはいつもくったくたなの。俺も、あいつと同じくらいのダメージ負うじゃん? だから、いっつも辛くてさ。でも、お嬢さんは結構余力残してる感じじゃない? いや~嬉しいね。ようやく変化……みたいな?」
わざとらしく両手を広げて、やれやれと首を横に振る。だが、またすぐに飛び去って彼女を翻弄する。
「王には、王の苦労があるんですね」
数秒前まで、ゴンザレスがいた場所に視線を向けて言う。
「あぁ、そうさ。お嬢さんに、それが背負えるかな?」
今度は、彼女の隣に立った。
「背負います」
と言って顔を向けた先には、もう彼の姿はなかった。
「大層なことを言ってくれるじゃねぇか。悪くねぇ。だが……そんな甘くないってことを教えてやる。お子ちゃま!」
嗤い声が、夜陰に響いた。直後、彼女の背後を取ったゴンザレスは豪快な蹴りを食らわせた。
「きゃっ!」
小さな体は、闘技場の地面を転がっていく。観客席からは、悲鳴にも近い声が上がる。
「王の容赦のない蹴りが、雪選手を吹き飛ばす! 正直、どこでどうなったのか……動きが速過ぎて俺には追えなかった! しかし、どうやらそれは雪選手も同じ様子! 王に、手に取るように弄ばれている!」
「圧倒的だね」
「あれもあれで……強くなっていくばっかり。最近では、本当に手が付けられないくらい。お陰で、王戦がいつも早く終わって助かっちゃうのよね」
美月は、嫌味っぽく言葉を漏らす。エンターテイナーとしての自覚を持って欲しいらしい。
「なるほど……困ったものだね」
適度に制御することは出来るはずなのに、それをしない理由は何なのか。本人に聞いてみなければ、分からないだろう。
「一体、何を目指しているのやら」
そう言って、美月は大きく息を吐いた。
「――その程度かよ、挑戦者さんよぉ!? 俺の動きも追えねぇとか、笑えるな! 偶然で、ここに立ってんじゃねぇの?」
頭上から、ゴンザレスの大声が響く。見上げると、いつの間にか彼は壁の上に立っていた。上と下、離れた位置にいる二人をモニターは映し出す。
「ちょっとばかし期待した俺が馬鹿だったのか?」
それを聞いた彼女の手が、ぴくりと動く。
「闘技場は平等だ。よって、生半可なことはしない。俺の勝利が決まるまで、徹底的に叩き潰す!」
そして、ゴンザレスは空を見上げ、天に手を掲げる。
「綺麗な技を見せてやろう。避けられるものなら、避けてみろ! 常しえの流星!」
天が眩く煌めいたかと思えば、無数の流星が舞台上に向かって余す所なく降り注ぐのだった。




