隠す気もない欲望
―闘技場 夜―
癖の強い永二選手と、破竹の勢いで勝ち進む雪選手の試合は決勝に相応しいものだった。永二選手はあんなキャラクターではあるもの、実力に嘘はなかった。
どちらかといえば、即座に勝負を決めながらここまで進んだ雪選手と、もう数十分は攻防を続けている。ゴンザレスに次いで、優勝回数が多いというのは伊達ではないということか。
「ファーストアタック!」
(ファーストアタック? 最初の攻撃? 一番目の攻撃? でも、もう……)
「六回目のファーストアタックが出たー! ややこしいが、これが技名なので仕方ない! 永二選手は、そういう所に強いこだわりがあるんだ!」
(なるほど、そういうことか)
「やれやれー! さっさとやっちまえ! とんでも新人だからってなんだー! いつも決めきれないから、二番なんだぞ!」
応援しているのか、貶しているのか分からない声援。それを聞いて、鬼のような形相で彼は観客席に顔を向ける。
「あ゛あ゛ん!? 誰!? くそみたいなことを言ったのは!? よっぽど特定されたいみたいだね!?」
試合中だというのに、彼は観客とのかけ合いが激しい。しかも、よそ見までしている。当然、その隙を彼女が見逃すはずがなかった。
「――っと! トップアボイドッ!」
だが、彼女の蹴りは空を切る。
「出た! 回避だ! 回避にまで名をつけるのが、永二スタイルだ!」
「俺の行動には、全てに意味があるんだ。その証明だ!」
彼の表情には、焦りはない。それどころか、誇らしげに笑ってみせた。いまいち、緊張感のない試合だ。あまり覚えていないが、決勝以前の試合ではもっと彼は真面目に取り組んでいたし、観客もむやみに煽ったりする姿はなかったと思う。
「だ、そうだ! 思わず笑っちまいそうだが、今の回避は見事だったぞ! 完全によそ見をしていたのに、雪選手の魔法はかすりもしなかったぜ!」
「笑っちまうは余計なんだよ。あ~どいつもこいつも! 行き飽きたが、お前の家には毎日通い詰めてやる」
もはや、あれほどまでの活躍を見せて歓声を浴びた雪選手が空気のようになってしまっている。完全に、永二選手の流れだ。
(本当に行っている……!? 行き飽きたって、かなりの頻度じゃないか……恐ろしい)
個人情報を割り出して、特定する執着力と行動力。諜報管理局にうってつけの逸材のような気がしてきた。このまま道を誤って堕ちてしまうくらいなら、先に掬い上げるべきなのではないだろうか。
「この俺こそが、ナンバーワンに相応しいってことを見せてやる。出でよ! 魔剣!」
(魔剣!? 嘘だろ?)
彼は選ばれし者か、作り手にしか扱えない剣を呼び出した。ますます、引き抜きたくなってきた。
「そういえば、そうだった! 永二選手は、魔剣の使い手として認められたんだったな!」
「……魔剣に選ばれたんじゃない。俺が選んであげたんだ。そこんとこ、勘違いするな!」
彼女の繰り出す攻撃を見もせずに防ぎながら、反論する。それに意味付けは不要なのだろうか。
「それなら、それを証明しろー!」
「選んだんだったら、自由に使いこなせるだろー二番手!」
(ファン……なんだよね?)
あまり知らないから不安になる。でも、多分きっとそういうバランスで成り立っている関係だ。そして、挑発にまんまと乗せられた彼は切っ先を観客席に向けて叫ぶ。
「カッチーン! やってやるよぉ!? その鳥頭にしっかり刻め、節穴にねじ込め!」
罵り返しながらも剣を構え、ようやくまともに雪選手を見据えた。
「ベスト……スラァッシュ!」
繰り出す技に、ことごとく願望が滲み出ている。ファースト、トップ、ナンバーワン……隠し切れてもないし、隠す気もないのだろう。
ベストと呼ぶに相応しい剣技を、彼は見せた。キャラクターのせいで、霞んでしまっているが――目にもとまらぬ速度で何度も彼女に斬りかかった。




