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夢と現実に違いはない

―? ?―

 僕の目の前には、男女が二人。真っ黒な毛が生えた僕の手の中にいるのが男。壊れたドアの近くで、腰を抜かして震えている女。女の方には見覚えがあった。


「――アリア、お前だけでも逃げるんだ!」

「お父さん……そんなの……嫌!」

「すまない……」

「嫌……嘘よ、お父さんがいなくなったら、私……!」


 瞬間、目の前が血に染まった。


***

―自室 朝―

「……アリア!」


 衝動的に、僕は飛び起きた。しかし、僕がいたのはベットの上。両手を見ても、毛など生えていない。つまり、先ほど見た光景は夢であったと証明される。


「夢……か」


 内心、かなりホッとしていた。夢と現実に境を感じないくらい、リアリティのある夢だったからだ。もしも、これが夢でなかったら――僕は友人の親を殺めたということになってしまっていた。


(でも……何だろう、この胸騒ぎは)


 アリアのお父さんには、勿論会ったことがない。そもそも、アリアと顔見知りになってそんなに経っていないのだ。あの日の呪術の授業終わりに、少し話して打ち解けて友達になったくらいだ。

 それなのに、夢で見た彼は現実と一緒だと心の奥から僕の声が叫んでいる。多分、それは疲れているせいだろうと思うが。


(それに……夢で感じた感覚を今も覚えてる)


 彼の体温、震え、匂い……今でも鮮明に思い出せる。先ほどまで、そうしていたかのようだ。


(夢だよね? 夢じゃなかったら……でも、可能性としてはなくはない)


 僕がこの国であの姿になってしまったのは、少なくとも二度。一度目は、知らず知らずの内に小さな村のような場所で暴れて人を殺めた。二度目は、そこでリアムを引きとめようとして力を使いこなせず暴走した。

 二度目の例は当てはまらないが、一度目なら――可能性がある。無意識、無自覚、殺人……考えるだけで手が震えた。


(考え過ぎ……考え過ぎだ。こんなこと考えるから駄目なんだ)


 昔から、その癖が治らない。考えて、考え過ぎて結果悪い方向に転がっていく。後ろ向きに後ろ向きに考えて、悪いことで頭がいっぱいになって目の前の大切なことに身が入らなくなる。そして、押し潰されてしまいそうになる。弱い僕には、ありとあらゆることが重た過ぎるのだ。

 だからこそ、考えないのが一番いい。分かってはいるが、この頭が考えるという行為を自然とやってしまう。


「……よし!」


 僕は気持ちを切り替える為、頬を両手で思いっ切り叩いた。少し痛かったが、お陰で負のループから抜け出すことが出来た。


「レストラン行かないと……しばらく休んでたし、ちゃんと謝らないと」


 今日は休日、大学はない。学生達は各々のプライベート活動に専念する。ある人は研究を、ある人は予習復習を、ある人はサークル活動を、ある人はバイトを。僕の場合、バイトである。


(クロエはもう起きてるかな? 気まずいな、クロエと会うのは。昨日も妙な感じだったし……まぁ、クロエがいてくれたお陰でどうにかなった訳だけど)


 あの意味不明な発言をした後、リアムは満足げに帰宅した。嘘はバレなかったようなので、僕は安堵した。その気持ちのまま、僕は夕飯を食べずに眠りにつき目覚めて今に至る。


(お腹は空いてないけど……用意してあったら食べるか)


 時刻は午前七時。長い長い一日の始まりである。

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