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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第四十六章 少し先の僕達の未来
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夢を掴め

―闘技場 夕方―

「――おーっと! ここで審判の旗が上がった! 第七試合、勝者は曙選手の勝利だぁ!」


 命が関わるか関わらないかの瀬戸際で、審判は適切にジャッチを下す。危険な試合はいくつもあった。けれど、こんな中でも落ち着いて判断出来るプロの目があるからこそ、未だ死者が出たことがないのだろう。


「そして、残念ながら瑠衣選手はここで敗北が決まったぁ! 爆破の衝撃で起き上がれない! 救護班が駆けつけて、治療室に運ばれていく!」


 この熱狂の中でも、大会は淡々と進められてく。即座に決着のつく試合もあれば、中々決まらない試合もあった。それでも、飽きなかった。全てが新鮮で、刺激的だった。


(これで八試合の内、七試合が終了した。次は、いよいよ彼女の試合だ)


 そして、舞台上に小柄な少女と大柄な男性がゆっくりと登場する。


「さあ、続いては八試合目。こちらも、注目の試合だ! 新人対達人、どちらに勝利の女神が微笑むのか。下馬評では、達人常盤選手の方が有利となっているが、逆境をどう乗り越えていくのかワクワクするぜ!」


(素人目から見ても、そう思う。だって、あまりにも体格が違う。しかも、相手は達人と呼ばれているのか)


 それでも、彼女は凛としていた。子供とは思えない気迫で、達人を睨んでいた。しかし、それを達人は気にも留めず入念に準備運動をしていた。


(彼女には、誰にも負けない夢がある。この不利な状況を覆すだけの可能性は間違いなくある)


 思わず、手に力が入る。

 そして、ようやく達人の準備運動が終わった。それを見て、司会の彼は待ってましたと言わんばかりにマイクを握り締める。


「両選手、準備が整ったようだ。じゃあ、いくぜ? レディ……ファイッ!」


 その掛け声を合図として、ついに試合が始まった。


(二人共、一体どんな戦術を使うんだろうか?)


 この大会は、何一つ制限がない。魔法を使っても、道具を使っても、飛んでもいい。何でもありのとんでも大会なのだ。


「っとー! 早速、雪選手動いた!」


 最初はどちらが手を出すかで膠着状態が続くことが多い中、彼女は積極的に仕掛けた。それを見て、達人はにやりと笑う。


「凍てつきなさいっ!」


 彼女が地面に触れた途端、氷が張った。そして、その上を彼女は優雅に滑りながら、氷玉を浴びせ続ける。こんなに素早く動き回る相手に、狙いを定めるのは困難だろう。


(なるほど、彼女は氷術を得意とするのか。しかも、氷の上で動き回る術まで身に着けている。少しでも有利な状況を作り出す為に……)


「触れたもの全てを凍てつかせるという恐怖の魔術! 完全に、地面が凍っている! 彼女はまるで、氷上の妖精のように動き回るが……常盤選手どうする!?」


 その時、ずっとその場から動かず、攻撃も浴び続けるだけだった達人が突然――豪快に笑い始めた。


「ガッハッハッハ! 氷など脆い脆いっ! この程度、わしの腕力でちょちょいのちょいじゃぁっ! ふんっ!」


 彼は拳を作り、力いっぱいに氷に叩きつけた。その一撃で、氷が粉々になって飛び散った。


「なんと! 分厚い氷が砕け散ったっ!」


 それには、流石に周囲もざわついた。魔力が使われた気配はない――つまり、これは彼の実力。


「面白い武器になりそうじゃあ、こりゃあ! ありがたく使わせて貰うぞぉ!」


 飛び散った氷片を、彼はここでようやく魔法を使って自身の周囲に集めた。そして、それを彼女に浴びせた。逃げ場はない。咄嗟に、彼女もシールドを張ったものの、いとも簡単に突き破られてしまった。


「きゃあああああっ!」

「流石は達人、雪選手が生み出した氷を己の武器として彼女にぶつけたぁ!」


 自身が生成した氷で、相手の武器として利用されて自身が傷付く。こんなにも屈辱的なことはないだろう。


「やっぱり、この試合は達人の勝ちかもなぁ」

「俺、常盤に結構賭けてるんだよ。頼むぜぇ……」


(やはり、経験の差はそう簡単には埋められないのか……)


 周囲の雰囲気も、達人の方へと流れていく。王として、露骨に片方を応援している態度を出す訳にはいかない。

 だから声は出さず、心の中で強く応援していた。僕個人としての感情は、心の中でならいくらでも爆発させられるから。


(諦めない限り……君は勝てる! だから、頑張れ。頑張って、夢を……掴むんだ!)

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