王の開会宣言
―闘技場 昼―
華々しく、煌びやかに登場した彼の名はゴンザレス。彼には、異世界から来たもう一人の僕という秘密がある。それを利用して、彼には影武者として活躍して貰ったこともある。
(なんだ、あの趣味の悪い仮面は)
だが、顔が同じという点がどうしても邪魔になることがある。それをを悟られないようにする為の仮面であることは分かるのだが、あの道化の仮面は長時間見ていたら頭がおかしくなりそうだ。
「あらゆる条件下においてでも、勝利を収めてきた絶対王者ァ! その伝説を打ち破り、新たな伝説となる者が現れるのか!」
リズムに合わせ、ゆったりと檀に上がってくる。手まで振って、余裕たっぷりな様子だ。大きなモニターにも映し出されて、随分とご立派な様子だ。
「きゃー! こっち向いてぇ~!」
「そんなに身を乗り出すと落ちるぞ! 死にてぇのか!」
あんなに趣味の悪い道化の仮面をつけているのに、黄色い歓声があちらこちらで上がる。強さだけで、ここまで人を魅了したらしい。
(これが、あいつの人気という訳か……大出世だ)
ようやく中央にまで到達した彼に、司会者はマイクを向ける。
「さあ、それでは戦士代表挨拶を一言お願いするぜ!」
「え~、あ~本日はお日柄も良く……」
と、真面目な声色でそこまで言った所で、彼は突然マイクをひったくった。
「――なんて、堅苦しい挨拶なんてやってらんねぇわ! 出場する度、代表なんてだりぃわ! 伝説ってのも楽じゃねぇよ。そろそろ肩こりしてきたわ」
叫びながら、遠くからでも分かるくらい大きく肩を回す。
「新人だか何だか知らねぇが、そろそろ代替わりしようぜ?」
顔は見えないけれど、かなり馬鹿にしているのは声からもはっきりと伝わる。
「伝説背負えるもんならなぁ! 俺を屈服させてみろよ、このすっとこどっこい共がぁ!」
「すっげぇ……痺れるぜ」
こんなにも憎たらしいのに、文句を言う声は近くからは聞こえてこない。それくらいの地位を築き上げたからなのか、そういう人間だと認識されてしまっているのか。
「以上! 代表挨拶でした! じゃ、対戦相手決まったらまた呼んでね~」
そして、彼は思いっきりマイクを投げ捨てて、また優雅にのんびりと戻っていくのだった。これには、流石に司会者の彼も怒るものかと思ったが、何事もなかったようにマイクを回収して笑顔で口を開く。僕だったら、一発殴らずにはいられない。
まるで、それが一連の流れであるかのように進めていく。
「ハッハッハ! これが、王者の貫禄って奴だな! しかし、こうも言われて挑戦者達も黙っていられるはずがない! という訳で、早速対戦カードの発表だ!」
すると、モニターの映像が切り替わり、挑戦者達の名前が順に並べられた――かと思えば、ぐちゃぐちゃにシャッフルされていく。
「今回はトーナメントで、最後まで勝ち抜いた奴が仮面の王に挑戦出来るんだ! しかも、ルールに制限はねぇから魔法でも何でもありだ。っと、対戦カードが決まったみてぇだ!」
ルールを簡単に説明している間に、挑戦者達の名前がトーナメント表の中に収まった。それを見て、観衆はざわつく。
「すげぇ、まさかあのカードが実現するなんて!」
「子供対大人だって!? どうなるか楽しみだな……」
僕も、興味のある対戦カードだった。なんせ、あの二人と関係のある少女なのだから。平等に見なければならないと思う。でも、心は自然と彼女を追っていた。
(雪という少女の相手は、あの大柄の男性か……勝てるのだろうか?)
「まずは第一回戦、雷電選手と水龍選手だ! 俺は解説席に移動するぜ! 会場の準備が終わったら、いよいよ最高のショーの幕開けだぁ! だから、もうちょっと待っててくれよな! 今日は夜まで……楽しもうぜぇえええっ!」
その声に合わせ火が噴射され、さらに場が盛り上がるのだった。。




