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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第四十六章 少し先の僕達の未来
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予期せぬもの

―武蔵城 朝―

 翌日、僕は自室で戦士申請書の確認していた。疲労とショックは抜けきっていなかったものの、仕事は待ってはくれない。龍の目を使い、身を削るような思いで目を通す。


「はぁ……」


 正直、こういう仕事は目を通さなくても、印鑑さえ押せば解決する。けれど、それでは――必死の思いでここまできた新戦士達の気持ちを踏みにじるのと一緒。だからこそ、僕は向き合う。


「はぁ~……」

「あの、大丈夫ですか?」


 すると、近くで見ていた見習い使用人の玄兎が声をかけた。僕のしつこいまでのため息に、異常を感じ取らせてしまったのだろう。


「え? あぁ、すまない。うるさかったかな。でも、気が付いたらため息が出てるんだ」


 昨晩の惺斗の拒絶は、僕の心に深い傷跡を残した。龍の力を使ったことによる疲労なんて可愛いものだ。


「視力が回復してきているって言っても、あまり無理はされない方がよろしいかと。読み上げなら、俺が……」

「あぁ、でも大丈夫。それに、これは今すぐにでも認定してあげないといけないものだから」


 こんな駄目駄目な僕を、優しく気遣ってくれる。小鳥のあの心配は、本当に杞憂に終わるのではないかと思ってしまう。


「そうですか? すみません、出過ぎた真似を……」

「いやいや、悪いのは僕さ。ちゃんと資料に集中しないと、ここまで頑張ってきた三人に失礼になってしまう。さてと……」


 そして、僕は二枚目に集中する。広く浅く捉える視界では、集中しなければ一つの物を詳細に見ることが出来ない。


『名前 雪、年齢 十歳、性別 女性、現職業 農家、身元保証人 西(せい)(つき)――』


 身元保証人の欄を見た時、心臓がとまってしまうのではないかと思うくらいの衝撃が走った。


「え!?」

「どうされました!?」


 突然、大声を上げた僕に彼も釣られるように驚く。


(こ、子供!? いや、二人もいい年齢だから、子供くらいいておかしくないと思うけど……前に会った時には、子供の気配は微塵もなかった。だとすれば、これくらいの年齢の子供がいるのってどうして!?)


 西と月は、僕のよく知る人物だ。知り過ぎているくらい。西と月改め、(あずま)睦月(むつき)。使用人と王女という身分違いの恋の末に、駆け落ちした。世間では、死んだことになっている。この事実は、家族ですら知らない。


「あ、いや……ほら、見てよ。この資料、まだ子供なのに戦士として戦える実力があるんだって~ハハハ……」


 動揺を誤魔化すように、僕は彼に資料を見せる。


(と、とりあえず落ち着こう。資料を読もう。資料を。二人のことも気になるけど、申請してきた子の情報も確認しておかないと)


『――自己表現欄 私には、二つの夢があります。一つ目は活躍して、自身の本当の両親を見つけ出すということです。私は、一度も両親の顔を見たことがありません。私は、私のことをもっと知りたいと思っています。どんな真実を受けとめる為の心と度胸は、身に着けているという自信があります。ですから、私は戦士として活躍し、両親に存在を認めて貰いたいと考えています。二つ目は、日々支援してくれる身元保証人の二人に恩返しをするということです。私はずっと、お寺で暮らしていました。ですが、とある事情によりお寺を離れることとなってしまいました。行き場をなくした所で、助けてくれたのが身元保証人の二人でした。衣食住の全て、訓練にかかる費用を出してくれました。戦士という職業は、この国において完全なる平等な職業です。危険や負担も覚悟の上です。私は夢を叶える為、戦士としてあの闘技場の舞台に立ちたいです』


 お世辞にも字は綺麗とは言えなかったが、思いは確かに伝わった。用意されている言葉じゃなく、彼女の心の中の言葉だとすぐに分かった。


「凄いですね。一生懸命書いたのが分かります。俺も負けてられませんね! 親近感も覚えますし、俺も使用人としてこれくらいの意気込みを書けるようにはならないと!」


 感心している彼の言葉を聞いて、これはチャンスだと思った。小鳥に代わって、僕が彼を見ると宣言した。


「親近感?」

「あぁ、年齢も近いなぁって。それと、境遇も似てて……まぁ、俺なんてこんなに立派なもんじゃないですけど」

「……境遇って言うと?」


 野暮だということは分かっていた。踏み込んではいけない領域であることも。それでも、彼は嫌な顔一つせず答える。


「両親の顔を見たことないって所ですかね。俺、既望教の施設で育てられて……逃げてきたんですよ。でも、この雪さんは、いい人達に保護して貰ったんですね」

「すまない、プライバシーに踏み込んでしまって……」

「あ、気にしないで下さい。俺、オープンなんで!」


 こんなにも素直な彼が、悪意を持っているとは到底思えなかった。小鳥にいい報告が出来ることを願いながら、僕は再び資料に集中を向ける。

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