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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第四十六章 少し先の僕達の未来
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月光のような

―武蔵城 夜―

 自室に戻って、仕事の続きでもしようかと思った時だった。


「……ん?」


(なんだ、この強烈な力のエネルギーは。一体どこから生じているんだ?)


 力の気配は、思いもせぬ場所――居住スペースから発せられていた。


(あそこから、こんな力を感じることなんて滅多にない。まるで、ずっと爆発が起きているかのような感じだ。誰かが悪さをしているのか?)


 力の気配を辿り歩きながら、僕は明確な場所を探す。目はほとんど見えないが、僕には人並み外れた第六感がある。だから、それに頼れば一人で歩くことくらいのことは出来た。たまに、つまずくことはあるけれど。


(真っ直ぐ先に行くとなると……僕らの居住スペースか。一体、誰が?)


 悪さ候補第一位は、美月だが――まだ第一会合室にいたはずだ。他の姉弟達も、まだあの場近くにいた。亜樹や惺斗は、これまでの力を制御する方法を習得していない。ということは、家族ではない誰かがいるはずだ。

 

(廊下にはいない。じゃあ、部屋の中に?)


 相手に悟られぬよう、気配を押し殺しながら一部屋ずつ探していく。そして、最も力を強く感じた場所は――。


(惺斗の部屋……だと!? 何故、ここから? 気配も、惺斗のものしか感じない。だが、これほどまでの力を発散させる方法を、まだ惺斗は習っていないはずだ。というか、そもそも就寝時間は過ぎているはず)


 この強烈な力に禍々しさはないものの、僕は胸騒ぎを覚えた。


(意味が分からない。が、とりあえず状況を掴まなければ!)


 もしかしたら、何か良からぬことが起こっているのではないかと思い、ドアを素早く開けた。


「惺斗!」


 部屋の中に飛び込むと、暗闇の中にぼんやりとした光が浮かんでいるのが僅かながらに見えた。まるで、月光のような。

 しかし、それもすぐに消えた。月光が差し込んでいた訳ではないらしい。


(消えた、完全に。嘘のように、力の気配が)


「お父さん!? ちゃんとノックしないと駄目なんだよ! もう!」


 惺斗の憤りと焦りが入り混じったような声色に、僕は引っかかりを覚えた。


「もう寝ている時間じゃないのか? 眠れなかったのかい? 暗闇の中で、一人で何をしていたんだ?」


 僕なりに優しく問い詰めると、わざとらしく否定する。


「え~? 何も……何もしてないっ!」

「本当に?」

「本当だよ!」


(ぼんやりとした光が消えた途端に、力のエネルギーも消えた。一体、どういうことなんだ? 惺斗は何を隠している?)


 この目で見れないことが悔しい。僕に感じ取れるのは、周囲にある僅かな光と気配だけ。明確な答えは、導き出せない。


「……そうかい」

「嘘なんてついてないからね! もう出てって! せいちゃんは、いい子だから!」


 ぐいぐいとドアの方に押されていく。


「ごめん、ちょっと、そんなに押さなくても……っとっと!?」

「ん~まぁ、許してあげる。ばいばい~」


 僕のことが邪魔で邪魔で仕方ないらしい。少し前まで、あんなに求められていたのに。


「待って、せめておやすみの――」

「じゃあね、ばいばい! ばいばい!」


 押し返すことは容易いけれど、この場に留まり続ければ僕の精神が持たないだろう。心の健康を保つ為にも、去ることは最善だった。


「もうあっち行って!」


 部屋の外に呆気なく押し出される。ドアを思いっきり閉じる音を聞きながら、僕は涙を流した。


(ここまで拒絶されるなんてショックだな。独り占めしたいことだったのかな、それとも僕のことが嫌いになったのかな……はぁ)


 一人息子に嫌われるなんて、立ち直れない。生きる希望さえ奪われていく気がした。


 

 ――そして、部屋を出て少しして再び現象が起こる。


(また、あの爆発的な力のエネルギーをここから感じる。惺斗自身に悪影響は現段階ではなさそうだけど……)


 この件に、惺斗が関わっていることを確信した。


(龍の目を使うべきだろうか? いや、それでは僕の体が持たない。ここで倒れるようなことがあれば、折角決めた予定が狂う。ここは耐え忍ぶしかない。現状、悪意のある力とは思えないから……今日は観察に留めておこう。だが、いずれ必ず……特定する)


 親子の絆を引き裂こうとする力を、原因不明な強烈な力の正体を明らかにする。それが、僕の新たな目標として加わった。

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