便りは海を越え
―武蔵城 夜―
とりあえず閏は放っておいて、僕は小鳥と共に別の場所へと移動した。
「いや~本当に助かった。星のことが関わると、閏はとてつもなく面倒臭く……饒舌になるみたいで。会合終わりだと、疲れてるから辛くてね」
「閏様は、星にご執心のようですからね。あの煌めきが、あの神秘さが好きだと仰っていました」
今は、僕よりも閏の方が詳しいはずだ。最近では、星から季節などが導き出せることを発見したらしい。特定の時期に、星と星を線で結ぶと見えてくるものがあると。それを、閏は星座と命名した。
「星という存在は、ずっと空にあったんだけどね。電気という名称で放っておかれるだけだった星には、こんな可能性があるんだよって僕が伝えたら、誰よりもはまっちゃったみたいで」
かつてゴンザレスから聞いた知識を、ふんわりと披露しただけ。そこまでのことはしていない。僕の功績ではなく、ゴンザレスのものだ。
「星についてお話される時の閏様の瞳は、星よりも輝いてますよ」
「星に関わると話がとまらないってことは、たまにあったけど……人前で、あんな風になるのは珍しいなぁ。それくらい、危機感を感じさせちゃったってことなのかな」
「えぇ!? そんなことないと思います。今の巽様に、それに感じる要素は皆無だと……」
小鳥は、声を裏返すほど驚いた。そして、強く否定した。
「小鳥は優しいなぁ。って、こんな僕の身の上話を聞く為に来た訳じゃないんだよね。何か用があったんでしょ? ごめんね。一方的につらつらと喋って」
彼女は若いながらにその才能を認められ、母親の跡を継ぎ、家政婦長となった。指導者として、後継の育成に当たっている為に多忙を極めているはず。
「いえいえ、巽様とお話しするの大好きなので……あ、変な意味じゃないですよ」
「変な意味?」
僕と話をするのが好きな理由が、変な意味である場合のことが分からず問いかけた。すると、彼女は慌てふためき、何かを誤魔化すように本題を切り出した。
「え? あぁ……え、えっと! とりあえず、それは忘れて頂いて……用というのは、これなんです。颯様からのお手紙が届いたんです。先ほど、飛脚の方に託されてすぐにでもお届けしなければと……」
父上は、母上と陸奥さんを連れて米国で外遊をしている。まさか、手紙が送られてくるなど思いもしなかった。
「父上が手紙か、面白そうだ。読んでくれないか? 自分で読もうにも、ちょっと疲れてて。いいかい?」
彼女も、また事情を知る人物。気を遣わせることはあるが、僕が気を遣うことはない。だから、自己中心的かもしれないけれど――頼りやすかった。
「はい、勿論です――」
そして、手紙の内容は読み上げられる。全てを記憶するつもりで、耳を傾けた。
『巽よ、元気か。私達は元気でやっている。初めての米国に、驚きの連続だ。住む世界がまるで違う。それに、言語も違う。お前は、よくあの短期間で別言語を覚えられたものだな。寧々がいなければ、私も陸奥も困惑し続けることしか出来なかっただろう。情けないものだ。これを機に、私も学ぼうと思う。外に出て、お前が成長したように……私もまた成長しよう。老いてばかりでは、仕方ないからな。帰国を楽しみにしておくといい。それと、記念に撮影した写真も入れておく。元気であるという証明として、皆にも見せても構わない。また会う日まで。宝生 颯』




