狙われた王位?
―武蔵城 夜―
会合終わり、部屋を出て僕はほっと息を吐く。思ったより話し合いもスムーズに進み、話も上手くまとまった。
決まったことは、主に三つ。一つ目は諜報管理局からマスコミを通じて、僕の目の回復を発表すること。二つ目は英国から技術者を招き、知識を普及させること。三つ目は、闘技場の仮面の王戦を国王観戦試合とすることだ。
「ふぅ……」
細かい調整は各部署、各局に任せることにした。申し訳なさはあるけれど、時に他の誰かを信頼し任せることもまた仕事だ。
(体が疲れたな……継続して、龍の目を使うのは大変だ。数年前は眠るか食べるかすれば、回復してきたんだけどなぁ。二十五歳を過ぎた辺りから、一日寝ても疲れが取れないんだよなぁ。これが、老いかぁ。あぁ、でも自分で決めたこと。慣れるか耐えるか……エースの技術に頼りながら、模索していこう)
「お兄ちゃん」
そんなことを考えていると、背後から閏の声が聞こえた。
「閏? どうしたんだい?」
振り返るも、僕の目にはほぼ映らない。龍の目を休めている今、閏の正確な位置すら分からない。匂いと気配を頼りに、何となくここにいるだろうと顔を向けた。
「しっかりしてよ」
はっきりと苦言を呈された。僕が上手く進行出来なかったことに、憤りを覚えたのだろう。
「ごめんね、僕もまだまだで。先代のようにはいかないねぇ。でも、僕なりに経験を積んで頑張るよ。それまでは、助けてくれ」
「そんな呑気なことを言っていたら、僕が――」
声だけでも伝わる苛立ち。この発言の流れでいけば、王を取って代わる的なことを言ってくるのかなと思ったが――。
「王にならざるを得ない状況になっちゃうかもしれない!」
「え?」
思いもよらぬ返しに、僕は戸惑った。
「この国の制度では、王位継承権が僕三位なんだよ! 一位の惺斗は、そういう次元じゃないし? 二位の亜樹さんは、興味ないって言ってたし? 僕に、パスが回ってくるじゃないか。そうなったら、もう断りにくい。お兄ちゃんが頼りないってなって、革命でも起きてみてよ。僕が王になっちゃうかもしれないじゃんか!」
いつになく饒舌に、僕が突っ込む隙を与えないくらいに喋り続ける。
「僕だって、興味ないんだよ。星の研究をしたいんだよ。お兄ちゃんが星という概念を作り上げた。だから、僕はそれを深めていきたい。星を学ぶ為の学校を作りたい! その夢が阻まれることになるなんて心外だ! だから、ちゃんと王やって!」
呼吸が荒いのが伝わってくる。周囲の様子が見えないから確かなことは言えないが、注目を集めていることだけは分かる。寡黙で冷静な閏が、こんなに声を荒げることは滅多にないからだ。僕も、かなり驚いている。
「うん、その覚悟はとうの昔に出来ているよ。それにしても、閏にそんな夢があったなんて。嬉しいな、お兄ちゃん。閏はとてもかしこいから、僕よりもずっと星について理解出来るだろう。誰かの夢を壊すことはしない。だから、安心して。こう見えても、お兄ちゃんは成長してるんだ。王座は誰にも渡さないさ」
戸惑う心を落ち着かせながら、微笑み語りかけた。
「でも、あんなんじゃ……隙を突かれるか」
「隙がある方がいいだろう。なんせ、その隙に直接入り込んでくるんだから。侮った相手は、油断する。これもまた、手法だよ」
(……なんて、言ってみるけど。あんまり説得力ないかなぁ。安心させられてないかなぁ)
「お兄ちゃん、そうは言うけど――」
「巽様っ!」
早くこの場を切り抜けたいと思っていた時、救いの手が差し伸べられた。力強くも優しいその声の主は――。
「はっ、小鳥!? ちょうど良かった! どうした何か用か?」
うっかり本音が漏れてしまうほど、安心した瞬間だった。




