掴んだ勝利
―闘技場 夜中―
眩い光を突破した瞬間、体に電流が走るような感覚を覚えた。それは、ぼんやりとしていた意識を覚醒させてくれた。
「う゛っ……」
闘技場といつもとは違う視界を見て確信する。僕は、戻って来れたのだと。
(体、体は動かせるか……?)
体の制御が利かなければ意味がない。もしも、結局ただ暴れるだけになってしまったら――とここに来て不安を覚えたその時だ。
――信じてよ、信じろって言ったのはそっちだろう? 君は、見せてくれるんでしょう。幻じゃなくて、本物を。君は出来る子さ――
(そうだね、ごめん。あんなに偉そうなことを言っておきながら、まだまだだ)
――いいよ、僕らは手を取り合って前に行くんだから。僕が立ち止まれば君が、君が立ち止まれば僕が引っ張るさ――
懐かしい声が、頭の中で反響する。僕は一人じゃない、という安心感が勇気をくれた。そして、試しに手足に力を込めてみた。
(動いた……僕の思った通りに!)
完全に獣へと成り果てたこの体を、意のままに動かせた。
(これなら、絶対に大丈夫!)
――不思議だ、前に融合した時とは全く違う。ほら、巽……嗅いでみて。今の君になら、嫌というくらい感じられるはずだ。目に見るよりも、ずっと正確にその居場所を捉えられる――
(うん……!)
そうだ、まだ勝負の途中なのだ。決着はまだついていない。恐らく、まだここにいるはずだ。逃げたくても逃げられない、それが昔の僕だった。だから、じっと潜めて敵が油断するのを待ち続けた。変な意地と見栄があったから。
(やっぱり、匂いはある。でも、姿はない。魔術か何かで姿を眩ませてるのかな。徹底しているな。でも……僕のこの鼻は魔術程度では欺けないよ!)
僕としては四足歩行の経験などほぼないが、体はしっかりと動いていた。匂いを辿ると、観客席に強烈な場所がある所を見つけ出した。ゴンザレスが演じるもう一人の僕は、そこにいる。
(観客席か。そこは、戦いの場所じゃないだろうに。らしいと言えば、らしいが)
俊敏に、なるべく気配を押し殺して近付く。そして、目前にまで迫ってもなお、その匂いが動く気配はなかった。ここで、僕は勝利を確信した。
「見つけたよ、もうこそこそと逃げ回るのは終わりだ!」
(喋れた! この状態で、凄い!)
いつもだったら、言葉なんて発せないのに。その衝撃と喜びで、胸がいっぱいになった。
「僕の爪は、全てを切り裂く! 消えてなくなれ、弱さに囚われただけのもう一人の……僕っ!」
そして、僕は右前足を勢いよく振り下ろした。目で見れば、何もその場所に。
「ぎゃぁぁああああっ!?」
耳をつんざくような絶叫と共に、彼は姿を現す。血こそ流れないものの、苦痛に表情を歪めていた。
「馬鹿な……暴走をしていない、だと!?」
「おかげさまで。最後の最後まで何が起こるかは分からない。油断していたんだろう。急に現れて、対応しきれなかった。もう終わりだ。この勝負……僕の勝ちだ」
――やったね、じゃあしばらくは休憩するね――
(うん、ありがとう)
すると、僕の体はみるみるうちに人間の姿に戻っていった。それを見て、彼は儚い笑みを浮かべ言った。
「オメデトウ――」
直後、彼の姿は粉々に消え去った。




