表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第四十五章 決着
730/768

一筋の涙

―精神世界 ?―

「――ねぇ、ねぇってば。起きて、起きてよ。巽」


 幼い、すがるような声が僕を呼び覚ます。


「う、ぅうん……っ、ここは……!」


 目を開けると、灰色の空間にいた。それだけで、自分がどこにいるのか認識出来た。


「僕の……心の中か」


 ここは、僕の精神世界。思ったことは、全て言葉として吐き出されてしまう。


「良かったぁ、起きたぁ」


 すると、視界の端から、少年がひょっこりと顔を覗かせる。


「ひさしぶりだね、君と……会うのは」


 安堵の表情を浮かべる彼は、僕が獣と呼ぶ存在。幼少期の僕の姿を象り、共に人生を歩んだ。あらゆる負の感情を栄養とし、望まなくともそれを求めて暴走してしまう。真に、もう一人の僕と呼ぶに相応しい。最初の頃は受け入れることが出来ず、僕は排除しようと必死だった。

 けれど、彼の気持ち――僕の為になりたいという健気な思いを知り、手を取り合っていく道を選んだ。結果、僕らは融合した。

 ところが、外部からの予期せぬ介入のせいで、僕らの繋がりは絶たれてしまった。連携も取れず、これからどうなってしまうのかと不安を抱いていた。どうやら、無事であったようで安心した。


「ずっとここで、独りだった。どれだけ叫んでも、巽の返事もないし……ついに、見切られてしまったんだと思ってた。怖かった……」

「そう、だったんだね。でも、君を見捨てたりなんかしないよ。それだけは誓う」

「でも、僕は今までずっと独りぼっちだった。皆、嘘をつくんだもん。巽だって、本当は僕のことなんて嫌いでしょう? だって、僕は化け物なんだ……」


 今にも、泣き出してしまいそうな表情。そんな様子で佇む彼を見て、僕の心も痛んだ。


「……本当にそう?」


 そう問いかけて、消えてしまいそうな彼の手を握り締めた。それに、彼は俯きびくりと肩を揺らす。


「え?」


 僕も、ずっとそう思っていた。たった独りで、暗闇の中を足掻いていると思っていた。けれど、それは驕りだ。


「思い出して、君だって……僕の中にいたんだ。分かるだろう? 見てきたはずだ、体感してきたはずだ。小さい頃、一緒に遊んでくれたのは誰? 不安な思いに寄り添ってくれたのは誰? 見守ってくれたのは誰? 命を懸けて、守ってくれたのは誰? 他にもいっぱい……いっぱいいるだろう。家族が、仲間が、友が、いつだって僕の傍にいてくれたじゃないか」


 僕は、皆の姿をイメージする。ある可能性を信じて。ここは、僕の心の中。ならば、イメージすればそれを具現化することは出来るはずだと。

 すると――僕らを取り囲むように、今まで僕らを支えてくれた人々がそこに顕現した。皆、眩い笑顔を浮かべている。この灰色の空間を照らしてくれそうな感じだ。


「でも、それは……僕じゃない。誰一人として、僕のことなんて……」

「君は、僕だ」

「どうして? 僕は化け物なのに」

「君は、僕から生まれたんだ。化け物だろうが何だろうが、君は僕の側面。決して、否定したりしない。無責任なことはしない。僕のことを信じて欲しい。そして、周りをちゃんと……見るんだ」


 僕の声に反応し、ようやく彼は顔を上げた。そして、周囲の皆を見て、彼は一筋の涙を流した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ