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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第四十五章 決着
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さあ、心の獣を解き放て

―闘技場 夜中―

 鋭く伸びた爪を立て、僕は何とか自我を保ち続ける。


(駄目ダ……こ、のままジゃ……)


「どうしてそんなに頑張るの? 足掻いた所で、無意味だって分かっているはずなのに」


 小刻みに震える僕を、彼は嘲り笑う。


「無意味な……ンかじャないヨ」

「アハハッ! 無意味さ、無意味っ! 見てご覧よ、自分の手を!」

「くッ……」


 言われなくても、とっくに目に入っていた。もはや、完全に僕の手は人のものではなくなっている。


「それにさ、今までだって一度も克服出来たことないじゃない? まぁ、無理矢理抑え込んだことはあったけど。根本的な解決にはならなかった、そうでしょ? だらだらと引きずって、こんな結果があるんでしょ? それを無意味以外に、どう形容することが出来るのか……僕に詳しく教えてよ。ねぇ!?」

「そ、れハ……ガゥゥッ!」


 胸部を締め付けるような痛みが走り、歪む視界。目に入る全てを破壊したい、そんな衝動が僕を埋め尽くそうとする。


「あぁ、もう無理か。別にいいよ、その答えは求めてなんかいないから」

「ア゛……」


 ついに、言葉を発せなくなった。喉の奥までは来ているのに、いざ口に出そうとしたらうめき声のようなものしか出せない。


「……お前は、ただその現実に打ちのめされればいい」


 そう言って、僕の頭を持つ。抵抗したくても、体は言うことを聞いてはくれなかった。


「その方が性に合ってると思うよ。絶望に満ちた顔こそ、お前に相応しい!」


 そして、力のままに僕の頭を地面に叩きつけた。頭部から、痛みと痺れが全身に広がっていく。内面の痛みと乗算され、叫ばずにはいられなかった。


「ア゛ウ゛ァ゛ア゛ア゛ッ!」


 さらに、地面に滴り落ちた血が目に入ってしまった。その匂いと、自分が傷付けられたという認識が僕に追い打ちをかけた。


「痛いよね、苦しいよね。早く楽になったらいいんじゃない? どれだけ暴れても、だ~れも傷付かないし心配しないでいい。疲れ果てたら、勝手に落ち着くさ」

「ハゥゥ……ウ゛ウ゛ッ!」


 よだれが溢れてとまらない。すぐ近くに餌がある。ちょうどいい脂の乗った肉の塊が。理性と本能のせめぎ合いは、もう僕の手から離れようとしていた。


「……所詮、その程度なんだ。僕という存在はね」


 彼の声が遠くに響き、痛みも感じなくなった。奥底へ、奥底へと意識が引っ張られていく。


「――さあ、心の獣を解き放て」


 その声が、認識出来た最後の言葉だった。肉体的な抵抗は、もう出来ないと悟る。けれど、心はまだ自分のものだった。


(……勝つ、このママじゃ……終ワれない。終わ、らせられない……)


 最後の気力を振り絞り、ここに来た目的を強く意識しながら僕は落ちていった。それが、この時に出来た最大の抵抗だったのだ。

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