世界を信じて
―闘技場 夜中―
剣に衝撃を与え、ここぞという時に最大限の力を解放し、破壊することを意識していた。防御するばかりの彼を誘導し、同じ箇所に当たりやすくなるようにした。結果、面白いほどに上手くいった。目論見が何の支障もなく達成されて、少し興奮を覚えた。
「僕だって、自分のことくらい分かるよ。どんな風に考えて、どんな風に動くかなんて」
彼は、刃を失った剣の柄を呆然と眺めていた。だが、僕のその言葉が癪に触ってしまったらしい。次の瞬間、彼は思いっきり柄を地面に叩きつけた。さらに、それを足で踏みつける。
「役立たずの剣め。これくらいの衝撃に耐えられないなんて。ふん、まぁいい。剣がなんだ。これ一つなくなった所で、僕にはまだ手段はあるんだよ!」
(自身の至らなさを剣のせいにする……か。人ではなく、物だから。当たりやすくもなる。結局は全て使い手次第なのに。でも、そうすることでしか心を保てなかったんだよね。自分が未熟だってことは、本当は気付いていたし、分かってもいた。でも、物は言葉を発さないから全てをぶつけられたんだよね)
「……そんな目で、僕を見るなっ! 剣を失った僕が、そんなに哀れに見えるか? だけどね……僕は、お前自身だっ! 哀れなお前自身そのものなんだよ!」
声を荒げ、指を差す。自分でも気付かぬ内に、そんな視線を向けてしまっていたらしい。
「そんなこと分かっているよ。だって、僕は君だから。全部全部分かるさ。君がそう言ったんじゃないか。君の弱さは、僕の弱さ。だけど、それは同時に――」
彼は言葉を遮り、僕に手のひらを向ける。
「黙れ! あぁ、僕が通用しないと言うのなら……他人を利用するまでだ!」
刹那、客席からいくつかの人影が落ちてきた。
「……え?」
その人影がはっきりと見えてくるようになると、僕は言葉を失った。
「お前が使える能力は……僕だって使えるんだよ。お前が使う気がないのなら、僕が使う!」
「そんな……なんで」
(この力は、ゴンザレスには絶対に……)
ふと、僕は我に戻ってしまった。この能力は、僕が宿す獣に関わるものだ。端的に説明するならば、一滴でも酒を飲んだことのある人物を思うがままに操る能力だ。万能ではないし、一部の人間には効かない。
それに、この能力に頼るのは何だか違うような気がして――意図的に使うことを避けてきた。
「考えている場合かな、フフフ」
(駄目だ、こんなことを考えていてはいけない。集中しなくては。目の前にいるのは、僕なんだから)
動揺する心を深呼吸で落ち着かせ、改めて現れた人達に視線を向ける。
「陸奥大臣、美月、父上……」
何が何やら訳が分からないが、打ち勝つ為には向き合うしかない。この課せられた試練を、乗り越えた先にある世界を信じて――。




