時の流れに
―武蔵城自室 夜中―
あれから、数年の月日が流れた。留学期間を終えて、僕は無事に自国へと戻り、王としての務めを全うしていた。いつぶりか激務と、様変わりしていた国の様子に戸惑いは覚えたものの、王の異変に気が付く者は事情を知る者以外にいなかった。
「……さて」
ゆったりとした椅子に腰かけて、目前で手をスライドさせた。すると、そこに映像が映し出される。その映像では、懐かしい人物が手を振っていた。
『え~っと、そっちの時間は……こんばんは?』
「はい、もう夜中です」
『わ~大変だ。ごめんね、眠いでしょ』
「いえ、わざわざ待って貰ってすいません。貴方だって、忙しいのに」
『平気平気、自分最悪寝なくていいし。忙しいのは、お互い様さ。王って立場は、ちゃんとやると……吐き気がするくらい刺激的だよ』
真っ白な髪を掻き上げて、笑顔を浮かべる彼の名は――エース・エイム。かつて、N.N.というコードネームを名乗っていた人物だ。
「……それは、嫌味ですか」
あの日、僕は彼に課した。国に尽くし続けることと、忌まわしき技術について出来得る限り全てのことを成すことを。
その為に、彼は素顔を晒すこととなった。あの著名な音楽家マイカ・ゲインが王であると知って、当時は大騒ぎになった。そして、複数あった彼の顔は、王――エース・エイムとして統一されることとなった。
『も~相変わらず、ネガティブなんだから。違う、違う。そういう意味で言ったんじゃないよ。楽しいってことさ。終わりなき命をもって、国を表からも陰からもサポートするさ』
彼は、そう言って少し困ったように笑った。
「ごめんなさい……」
『わー! もうなんで謝るのさ。君は、何も責任を感じることはない。これは、自分が受けるべき罰だと思っているよ。それにね……何だか、楽しいのさ。最初はしょうがないってやってたことだけど、不思議だね。満たされているのさ。それに、名前で呼んで貰える。ボスでも、N.N.でもない……エース、自分には勿体ないくらい素敵な名だ。償う姿勢ではないのかもしれないけれど、感謝しかないよ』
彼がそう思ってくれるなら構わないけれど、やはり引け目は感じる。僕もやってきたことは、彼と同じ。状況を利用している時点で、もっと業が深いかもしれない。
「それなら……いいんですけど」
『ようやく、存在を認められた気がするんだ。不思議だね。ただ、名前が与えられただけなのに』
「……あの」
罪だの罰だのという話は、心苦しくてあまり続けたくなかった。まるで、僕が断罪者になったみたいで。そんな資格は皆無に等しいというのに。
『え? あぁ、ごめんごめん……そろそろ、本題に入りたいよね。その為に、わざわざ時間を用意して貰ったんだし。えぇっと、イザベラのことなんだけど――』
そして、ようやく話は本題へと進み、神妙な面持ちとなって彼は口を開く。




