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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第四十四章 白烏
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同じ顔、同じ人

―ホテル屋上 夜―

 アレン……いや、アレスさんが遺した記録とは一体何だろう。一個人が持てるようなものといえば――。


「日記、そいつがあったんだ。お前の記憶のない部分も、書いてあったぜ。壁を音も立てずに綺麗にくり抜いて現れて、正気を失っていたっていう内容だ。対処を試みたが、神に等しい力をいくつも所有するお前の前に無力だったと。目を覚まさせること、それまでしか出来なかったらしい。その後に白い天使の目撃情報を聞いて安心したと同時に、子育ての難しさを感じたって」


 それを聞いて、N.N.は顔をしかめた。恐らく、彼が怒りを覚えたのは――子育ての難しさという部分だろう。あんなものは、子育てとは程遠い。客観的に見ても、よく分かる。


「なるほど……」


 僕が相槌を打つと、ゴンザレスはにやりと笑みを浮かべる。お前より、俺の方が知ってるんだぞと言わんばかりの表情だ。


(まったく……調べろって言ってるんだから、君の方が知ってて当たり前じゃないか)


「ちなみに、あったのは昔のもんだけだ。最近のもんは、多分警察が証拠として持ってったんだろう。お陰で、こっちは助かったけどな」

「……腐っても貴族の末裔。立派な家に住んでたんだろう。よく、そんな個人の記録を見つけられたね」

「ご名答。城だったぜ、完全に。俺が執念深くなかったら、もう詰んでたね」


(確かに、ゴンザレスは執念深い。きっと、そんな性格じゃなかったら、今頃僕は……いや、この世界は……)


 それが、鬱陶しく感じることもある。けれど、それに僕は幾度となく救われてきた。それは、紛れもない事実だ。その執念が、ゴンザレスをここまで成長させた。僕に焦燥を覚えさせるくらい。


「見事だよ、本当に。まさか、あいつそのものが生きていたなんて思いもしなかった。容姿が異様に似ていることに気味悪さを覚えていたが、まさか子孫だったなんて。しかも、その体を奪っていたなんて。アレン……可哀相な子だ」


 体に突き刺さったままの剣を撫でながら、儚げな目で言った。


「存在は知ってたんだな」

「学内にいたのだから当然だ。ただ、その容姿以外には何も気に留めていなかった。それで……いつから、あの男は子孫の体を略奪した? 何故、そのようなことを?」


 興味もなかったと言う割には、その体はかなり前のめりになっていた。


「残念ながら、その明確な答えは分からん。言ったろ、古いのしか残ってないって」

「あぁ、そうだったか……つい、ごめん。でも、警察がまだ所有しているのなら、自分も閲覧出来るかなぁ? なんて、もうそんな資格はないか」


 N.N.は、大きく息を吐く。


「そりゃ知らんけど……でも、日記全体を見ての推測なら出来る。お前みたいにねっ」


 ゴンザレスはウィンクをして、指を鳴らす。


「へぇ、それは信頼出来るね。あぁ、本当に」


 酷くがっかりとした様子だった。経験を通して推測する力、それはとても強大だ。上手く立ち回れば、圧倒的な存在となれる。しかし、その弱点はイレギュラー。初めてのことに対しては、あまりに弱い。それにより、彼は目的を阻まれた。能力への不信感、自信喪失に繋がっても仕方のないことだろう。いくら望んでいても、生涯をかけた計画の達成を目前に折られたらこうもなるだろう。自業自得みたいな所も当然あるが。


「毎日毎日、全てが詳細に記してあったからこそだ。あいつは、取り残される恐怖を覚えていた。神となった以上、死は基本ない。でも、それは時の流れがあいつの中でなくなっただけであって、周囲にはある。いつしか戦乱も終わり、その傷跡を引きずるだけになった。それが、窮屈で不快だったらしい。どうにかしなければと思いながらも、時の流れに身を委ねるしかなかった。そんな中、偶然見つけてしまったんじゃないのか。瓜二つの存在を」

「それが、アレン。アレスの妹の子孫……ってことか。妹を大事にしていたのは、知っている。なら、どうして……」


 それに対し、ゴンザレスは首をひねりながら答えた。


「……死んでもないのに、生まれ変わりみたいな子孫を見て怖くなったんじゃないのか。妹の無事は確認出来ても、気味が悪いみたいな? ドッペルゲンガーみてぇな感じで。それに、顔が同じなら利用価値もある。存在しないはずの人間であるアレスとしての自分よりも、存在が認められているアレンとしての方が動き回りやすくなるとも思ったんじゃねぇかなぁ……」


(同じ顔が怖いか、ふん……)


 自然と視線が、ゴンザレスの方を向いた。すると、彼はそれに気付き続けた。


「まぁ、同じ顔ってだけで剣を向けてくる奴もいるしな。ぶっとんだ奴だと、そんくらいすんだろ!」


 しんみりとした雰囲気を吹き飛ばすように、彼は満面の笑みを浮かべた。僕に、嫌味を盛大にぶつけて。

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