ネズミの如く
―N.N. 回想―
その出口探しは、簡単にはいかなかった。異変に気が付いた研究者達が、自分らを捕えようと躍起になって迫って来たからだ。しかし、そこにマーラの姿はなかった。研究者達が、この騒ぎと失態を悟られまいとしていたからだ。
「逃がすなっ!」
「たかが子供一人相手なのに、どうしてこんなに……!」
「マーラ様に悟られるなっ!」
「大丈夫です。マーラ様は今は別の棟にいらっしゃるので、ここでの騒ぎには……」
(この人達も同じだ。自由じゃない。可哀相。それでも……自分は逃げる!)
一対大勢で、避けきれないこともあって何度も攻撃が体に当たって傷が出来た。けれど、その傷は異常な速さで治癒していった。自覚した、この身はもう異常に堕ちてしまったのだと。
でも、悪いことだけじゃなかった。その戦いの最中で、自分が成長していることに気が付いたのだ。体に痛みが走る度、明確に。
「全ての出口を閉鎖しろ。ここから、絶対に出すな!」
彼らも必死だが、自分も必死だった。気が付けば、自分は一本道に追い詰められていた。前方にも後方からも、道を阻まれる。
(閉ざされた場所こそが出口ってことか。でも、このままじゃ……後にも先に進めない。どうしたら……)
けれど、次第に何となく分かるようになった。次、彼らがどんな攻撃をしてくるのか、どんな動きをするのか――この短時間の中で、身に着けた経験が示していた。
(何? この感覚……全てが手に取るように分かる感じ。不思議な……)
この絶望的な状況で、どのように動くのが最善なのかが分かる。だから、その感覚――いわゆる勘に順じた。
「たぁっ!」
「なんだ!?」
示されるまま、自分は壁を素早く渡った。彼らはその行動の意味が分からず、口をあんぐりさせていた。
(足を素早く動かしたら、壁が床みたいになっちゃった。このまま行っちゃおう!)
立ち止まったら、無様にも落下してしまうことは明らかだった。唖然としていた彼らも、それを理解して自分を動きをとめようとしてきた。
「まるで、ネズミだな! 小賢しいっ!」
そんな声が耳に入った。確かに、こんな動きをしていたらそう言われても仕方がない。でも、それでも良かった。本物の自由が手に入るなら、なんだって。
「小さな生き物でも馬鹿にしたらいけないんだよっ! それぞれ得意なことがあるんだから。さようならっ!」
今、凍結の魔法を使うべきだと感じた。全てを凍てつかせる、絶対零度の魔法。肉体に使うのは、少しダメージがある。だから、狩猟などに使うことに適していると見た。本来の使い方には反していても、それが最善なのなら成すしかない。
(本当は傷付けたくないけど……力加減が分からない。それでも、絶対にここから出るんだ!)
「凍てつけ!」
研究員達に向け手を伸ばし、そう唱えた。すると、瞬く間に彼らの体は氷に包まれていった。心が痛む。
(ごめんなさいっ!)
気に留める余裕もなく、自分は心の中で繰り返し謝罪する。そして、氷結の魔法を発動させながら出口を目指した。




