似た者同士
―N.N. ホテル屋上 夜―
「――え、じゃあ、そのままハンマーで親……いや、そいつらをぼっこぼっこにしちまったのか?」
ゴンザレス君は、不快感を滲ませながら問いかけてきた。
「まさか、そんなことは出来なかったよ。そもそも、知らなかったんだ。ハンマーが人を殺せる道具だってことを」
「じゃあ、もし知っていたのなら……貴方は……」
「いや、出来なかっただろう。自分は臆病で弱いから」
自分は、この手をほとんど汚さずに生きてきた。怖いから、何かと理由をつけて組織の者達に押し付けた。肝心な相手を殺すのは、いつも他の誰か。アレスの時だって――。
「臆病? ここまでのことをやってのけた奴が? 臆病なくせにゃ、大胆だな」
「集まった者達が優秀だったから。勢いで出来たんだ。特に、今の世代の子達は……未知なる力を持っているだけあってね。よくあるだろう、お飾りの王って。周りが優秀だから、たまたま上手く出来ているだけのことって。自分一人じゃ……何も出来なかった」
そんな彼らに、自分が出来たことと言えば、最初の望みを叶えてあげることだけ。その為の準備を整え、与えてきた。もし、彼らが心変わりしてしまったら――何も成せない。幸福な死を望みながら、直前になって死を恐れてしまう者達のことは予測出来た。命があり、心がある以上当然のこと。
だが、そうではなく――ごくまれに彼らにイレギュラーが作用し、誰かの為に命を投げ出す者も現れた。その時は、ただ涙を流すしかなかった。
「こりゃ、たまげたな。なんか、なんかさ……お前ら似た者同士じゃね?」
彼は薄ら笑いを浮かべ、巽君と自分の顔を見比べる。そこで、気が付いた。巽君が眉間にしわを寄せて、俯いていることに。
(気分でも悪くなっちゃったかな)
「自己評価えぐ低い所とか、周りへの劣等感とか」
「……だってさ、巽君」
一応呼びかけてみたものの、巽君はそれに応じることはなかった。
(聞く気もないか、理解する気もなくなったかな)
彼は、自分を理解したいと言った。けれど、それは簡単なことじゃない。大人に出来ないこと、それは子供だから出来るのだ。何もしがらみがないから。
「こいつ、会話のキャッチボール苦手だからよ。あ、知ってるか。で、話の続きはまだあるよな。俺が逸らしちまったけど、続き教えてくれねぇか。殺さなかった後、お前に何が起こってどうなったのか」
「聞く価値は、あるか――」
「あります。だから、聞かせて下さい。貴方が、今に至った理由を……僕は知りたい」
巽君が食い気味に口を開く。あんな顔もしていたし、興味を失っていたものと思ったが。
「あれ、そう? 嫌そうな顔してたから、まさか君から求めてくるなんて意外だな」
「え? あぁ、ちょっと頭の中を整理してて……さっきは、そんなに重要そうな会話をしてなかったので」
一切、悪気を感じない表情だ。ゴンザレス君はかなり睨みを利かせているが、それにも気付いていないようだ。偏ったコミュニケーションで過ごした幼少期、毒気の多い性分故のことだろう。
「フフフ……そうだね、今の君の中に新たに情報を入れるのは、大変だろうね。じゃあ、整理も終わったようだし……話の続きといこうか」




