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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第四十四章 白烏
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あの日の選択

―N.N. 回想―

「――え」


 外は、暗かった。何とも言えぬ静けさと鼻につく異臭。心地良い風も、楽しげな小鳥の歌声も、人々の笑い声も聞こえなかった。

 しかも、街並みを構成する建物は全て白色。不気味であった。その現実と想像のギャップに、ただ呆然と外の世界を眺めるしか出来なかった。


「どうかな? 外の世界は。ようやく見せられるレベルにまで達したんだ」


 隣でその空気を楽しむように、深呼吸をするアレス。

 

「なんで……?」

「あれ? どうして、そんなに悲しそうな顔をしてるの? こんなに面白いのに」

「面白くなんかないっ! 何が……こんなっ!」

「戦争だよ、本で見たことあるでしょ? 争いが全てを壊し、また新たな世界を紡ごうとしているんだよ……」


 そう、自分が牢の中で期待に胸を躍らせている中、外の世界では人間と鳥族の戦争が勃発していたのだ。きっかけは、あやふやなまま。当時の記録には、それぞれの文献で全く違うことが書かれている。


『国王に、鳥族の使用人が毒を盛った』

『人間が、カラスを侮辱した』

『カラス達が、国家を乗っ取ろうと策略を立てていた』

『元凶は、人間にあり』


 一体、どこの誰がどこから見て書いたものなのか――信憑性に欠ける記録。当時を知らねば、ただ混乱させられるだけの情報だ。自分もはっきりとは分からない。外に出たのは、全て終わった後だったから。

 でも、絶対に――アレスが鍵を握っている。確かめる術はもうないが、悪意をばらまいたのは間違いなく、アレスだ。


「最初は、人間とカラスだけだったんだけどね。人間達が翼を持ってるからって理由で、鳥族をまとめて攻撃対象にしちゃってねぇ。瞬く間に、この有様さ。正直、想像以上だった。ま、お陰で早く君を外に連れ出せたからいいけどさ」


 その笑みは、普段自分を安心させてくれるものとはかけ離れていた。そして、それこそが彼の本性だと気付くのは、もう少し後のこと。


「どうして、震えているんだ? 嬉しいでしょ? 君を虐げ、貶めた。そんな世界が傷付いて。それに、君は……ちゃんと見ていない。争いの醜い部分しか見えていない」

「アレス?」

「争いは、新たなる可能性を呼ぶ! 相手に勝ちたい、その思いが技術を発展させ、成熟させる! そして、争いの為に生まれたそれが……他のことに応用出来るようになる。例えば、医術とかね。手を取り合うだけの世界では、決して生まれてこないのさ! だから、暴れよう。恨まれ疎まれようとも、これからの未来を信じて!」


(アレス、おかしい。おかしくなっちゃったの? それとも、アレスはこんなことになっちゃった世界が本当に大好きなの?)


 これまでずっと、自分はアレスの言うことだけを信じて生きていた。それが全てだったから。


「嫌だっ!」

「ん~? 嫌かぁ……じゃあ、これで分かってくれる?」


 彼は困ったように笑いながら、指を鳴らした。すると、誰もいなかった所に黒髪の男女が二人、突然姿を現した。二人は苦しそうに肩を揺らし、自分達を見上げ、睨んでいた。


「えっ!? 誰!?」

「これが、魔法さ。流石は、鳥族。少し離れた場所からの瞬間移動じゃ、死なないね?」

「鳥族……? じゃあ、この人達は……自分と同じ――」

「お前と同じだと!? ふざけるなっ!」

「呪いの子! その白さが、禍々しいっ! お前の呪いが、国を狂わせたの!」


 心の奥底から浴びせられた憎悪。まるで、ゴミでも見るような視線。


「お前なんて、生まなきゃ良かったのよ!」


 心の中で、何かが割れる音がした。この言葉で確信する。この人達が、自分の両親だったのだと。そこに、自分が信じて疑わなかった愛は微塵も感じられなかった。


「生んでしまった時点で、手遅れだった。殺せば呪いが末代まで降りかかると、生かせば災い呼ぶと脅された。どうにもならない災いを呼んだなど、一族の恥! 我らが管理する土地の一角を呪いを封じ込める場所にしたというのに、小汚い人間は呪いの代物にさえ手を出し、挙句、外にまで出すなど!」

「ちっぽけな生き物だなぁ。うん、まぁ気持ちも分かった所で……はいっ!」


 深く感心した様子で頷くと、アレスは自分の手にハンマーを握らせた。


「え?」

「そんなアホ面でどうしたの? あ、このハンマーをいつの間にってこと? これは魔術だよ~」

「違う、そうじゃない。これで、何しろって言うの?」

「嫌いでしょ、こんな奴ら。身勝手でさ。君の人生を狂わせた。ただ見た目が違うってだけで。全て尊厳を奪ったんだよ。頭からっぽさ。君があの暗闇で生きている中、こいつらは煌びやかな世界で優雅に生きてたんだ。全てを奪った哀れな者達に制裁を。今こそ、復讐の時さ」


 心臓の音が大きくなっていくのを感じる。手の中にあるハンマーが、自分を惹きつける。


(自分は愛されてなかった。嫌われてた。見た目が違うだけなのに。こんなに頑張ったのに。全部自分のせいにされて……知らないのに、綺麗な世界しか自分は知らないのに。なんで……自分が!)


 醜い感情、それが胸いっぱいに広がった。自然と手に力が入る。


「自分は……」


 座り込む両親だった人達に、それを向ける。自分の息が荒くなっているのを感じる。


「フフフ……」


 アレスの笑い声が、耳に響いた。そして、自分は霞む視界の中、ハンマーを大きく振り上げ――。


「ばいばい、おやすみ――」

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