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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第四十四章 白烏
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現実と夢の狭間

―N.N. 回想―

 もう少し、そのふんわりとした言葉をいまいち掴み切れないまま、ひたすら待ち続けた。


「はぁ……」


 待つと決めたものの、退屈で仕方がなかった。何故なら、外の世界は沢山の物に溢れていると知ってしまったから。時が経てば経つほど、外への憧れは強くなっていった。それと同時に、自分がここにいることへの疑問が沸々と湧き上がる。


(どうして、自分の親は……この見た目が嫌だったんだろう。カラスは黒だから? 親は子供を愛するものじゃないの? 自分をここに閉じ込めるくらい、大嫌いなの? 悲しい、悲しいな。悲しいのは嫌だ!)


 重い頭を横に振り、狭い牢の中を一定のリズムを刻みながら走る。


(こんな気持ち吹っ飛ばしてやるぞ!)


 外に行くなら体力もつけなければいけない――とアレスから聞いて、自分は部屋の中ではあるが軽く運動をするようにした。最初は、部屋を歩くことすらままならなかった。けれど、幸いにも自分には時間が有り余るほどある。へこたれずに努力して、走ったり跳んだりすることが出来るようになった。苦痛の時間から、楽しい時間へと変わった。

 それからというもの、自分は何か悲しい気持ちになる度に体を動かすようにしていた。それでどうにかなるということはないものの、考え過ぎに済むという利点があることに気が付いたから。


「えっほ、えっほ、えっほ!」


(アレスが親だったら良かったなぁ。でも、一回だけでいいから……会ってみたいな。大きくなった自分を見て、愛してくれるかも。白くても、立派になったねって認めてくれるかも! 走ってる所を見せたら、かっこいいって言ってくれるかも!)


 自分を生み捨てた愚かな者達に、こんな努力は届かないことを知っていれば――傷付くことなどなかったかもしれない。


「よし、次は腕立てだ!」


 アレスが教えてくれたトレーニングメニューをこなし、基礎体力を身に着ける生活。疲れれば、ランタンをつけ、勉強へと移行する。外で待ち受けている絶望も知らず、勝手に期待して思い上がって。努力は報われると信じていた愚かな頃。


(外に行ったら何しようかなぁ。太陽とか月を見てみたいな。それと、綺麗な音楽も聞いてみたいし……お買い物もしてみたいな!)


 綺麗なおとぎ話のような世界が、外にあるものだと信じて疑わなかった。自分が置かれている状況が、醜さの象徴であるにも関わらず。


「――あ!」


 腕立ての最中、アレスの気配が近寄ってくるのを感じた。自分は腕立てを中断し、驚かせようとドアの前で待ち伏せ、様子を伺う。そして、ドアが開くと勢いのままにアレスの足に抱き着いた。


「おはよー! おはよー!」

「おやおや、いつになく今日は甘えん坊だね。元気そうで良かった。さて、かなり待たせてしまったけど……ついに、その時が来たよ。N.N.君、外に行こう」

「え! え! 本当!? やった、やった! 嬉しい、嬉しい! 行く行く! 今すぐ行く!」


 内臓や骨、自分を構成する全ての要素が喜んでいた。もしも、花火が体の中で打ち上げられることがあるとしたら、こんな感覚なんだろうと思った。それくらいの衝撃が、自分の中を駆け巡った。


「ようやく、ようやくだ。外は凄いことになってるよ。さあ、おいで――」


 悪魔の手招き、狂人の誘い。そして、自分はようやく――現実を目の当たりにすることとなる。

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