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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第四十四章 白烏
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待つ者

―N.N. 回想―

「――さて、そろそろ時間だね。やることは、あっちもこっちも盛りだくさん。君も、しっかりと寝てね。寝る子はよく育つらしいよ。ばいばい、おや――」

「自分も行く! 自分も外に行く! 行きたい!」


 立ち去ろうとしたアレスの手を、強く引っ張った。


「え!?」


 それが予想外だったのか、彼はしばらく愕然としていた。


「外見たい、外、外! 外に行く~!」


 この頃になると、自分は普通にコミュニケーションを取れるようになっていた。読書や勉強で、見たことのない外の世界を想像出来るようになった。そして、それを実際にこの目で見てみたいと強く思うようになった。


「お願い~ちょっとだけでいいから~ね? 夜は、人を隠すんでしょ? 自分のこともきっと隠してくれるよ! お願いっ!」

「う~ん……」

「見たいなぁ、見たいなぁ」

「……今は、まだ早いかな」


 そう言って、自分の手を払いのけた。それは、明確な拒絶だった。少しだけ痛かった。手も、心も。


「えっ」

「今、この世界を見せた所で……ねぇ。もうちょっとなんだ」

「怒ってる?」

「あ、ごめんごめん。そういうつもりじゃなかったんだ。怒ってないさ」

「じゃあ、どうして……」


 何とも言えない悲しさに襲われて、目の前が滲んでよく見えなくなる。これは、涙だ。アレスがいなくなった後、いつも涙が溢れてくる。


「ん?」


(あの物語の主人公は、人前では泣かないようにしてた。だから、自分もアレスの前じゃ泣かない。絶対に泣かない。後で泣くもん。どうせ、お外行けないし)


 涙は、人に見せてはいけないと本の主人公が堪えているのを思い出した。彼に見られないように、俯いて歯を食いしばる。


「約束するよ、絶対に外の世界を見せてあげるって。もう少しだけ待っていて」

「もう少しって、どれくらい?」

「じゃあさ……少しの間だけ、ここに来なくなってもいい? それだったら、早く出来るかも」

「それは……」


(外に行けないのは嫌だ。でも、アレスに会えないのはもっと嫌だ!)


 ぐっと涙を堪えて、彼に抱き着いた。


「ごめんなさい、待つから! 自分待てるから。約束守ってね。だから、来なくなるのは嫌だ。もう少し待つからね。自分、待てるからね。だから、だからね……毎日来て」

「フッ……」


 独りの時間が長くなることの方が、辛くて寂しい。それくらいなら、想像の中で外の世界を思い描き続ける。


「そうか、うん。じゃあ、もう少し待とう。まぁ代わりにはならないかもしれないけど、この本をあげよう。いつもよりも分厚くて、難しい本さ。いっぱいいっぱい考えて、読み進めてごらん。必ず、力になるからね……」

「うん……」


 恥ずかしながら、無知だった自分にとってアレスこそが全てで救いで支えだった。だから、少しでも長く一緒にいたい――そう願っていた。

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