表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第四十四章 白烏
705/768

君と名前

―N.N. 回想―

 それからというもの、宣言通り毎日アレスはやってきた。その中で、自分は様々なことを習得していった。例えば、自分を表現する方法。何かを覚える度、楽しい、もっと知りたい――そう感じるようになっていた。


「――アレス、お話!」


(お外、聞きたい。楽しい、楽しい)


「おぉ、いいよ。今日は、まだちょっと余裕があるからね。どんな話がいいかな?」

「お外!」

「外かぁ。ってことは、ここが中だってことは分かるようになったんだね。素晴らしいことだ。周囲に興味を持てるようになったのは」


 度重なる交流で知った、自分の境遇。まだ未熟だった自分に、アレスは包み隠さず容赦なく真実を浴びせ続けた。それでも、まだこの時は――その事の重大さまでは理解していなかった。


「お外!」

「分かった分かった。うん、でもねぇ……外の世界は退屈だよ。楽しいことなんて、何一つない。皆、手を取り合ってさ……仲良しこよし。つまんないんだよね。その裏で、君みたいに不幸な人生歩んでる奴がいることなんて考えもしない。一度、皆で不幸になってみた方がいいって思わない? だから、さ……ちょっと壊してみたいんだ」

「う~ん?」


 まだ見ぬ外の世界について語るアレスの表情は、暗かった。いつも飄々として、笑っているアレスとは思えなかった。


(アレス、悲しい。元気ない。お外、悲しい?)


「……まだ、君には早かったかな。ごめんね、愚痴ちゃって」

「悲しい、しない。ばいばい、お休み」


 アレスがいなくなった後、いつも悲しい気持ちだった。特に、夜は。「こんばんは」って入ってきて、「ばいばい、お休み」と去っていく。部屋は闇に、孤独になる。それでしか悲しさを感じたことがなく、そう表現するしかなかった。


「お、おぉ……でも、まだいるよ。しかも、お昼寝にもちょっと早い。申し訳ないことをしちゃったかな。そーだね、あ、そうだ! 折角だから、君に名前をつけよう!」

「名前?」


 アレスには、アレスという名がある。自分は、いつも「君」と呼ばれていた。それが、名前ではなかったことを知って少しショックだった。


「でもなー名前のセンスないんだよね。考えるのもあれだしなぁ。う~ん、カラス……ラテン語……お! そうか! 名無し、ノーメンネスキオーなんてどうだろう。あ、でも長ったらしいか。覚えにくいよね。じゃあ、頭文字を取ってN.N.にしよう!」

「お、ぉ?」


 いつもは、もっとゆっくりと話してくれていたのに、興奮していたのか流れるように言葉を発した。聞き取れたのは、奇跡的だった。


「決めた! 今日から、君の名前はN.N.だ!」

「き、君の名前は、N.N.だ!」

「言ってご覧、自分の名前はN.N.ですって」

「自分、の……なま、えは、え、N.N.です!」

「凄い! よく言えたね!」


 自分よりも嬉しそうに、アレスは頭を撫でてくれた。それがとても嬉しくて、もっと褒めて貰いたくて、何度も自分の名前を繰り返した。


「自分、N.N.! 自分、名前! え、N.N.!」


 この時は、まだ知らなかったのだ。アレスが、これっぽっちも自分の為を思っていなかったことに。利用する為だけに、自分に近付いてきていたことに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ