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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第四十四章 白烏
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サンドイッチを食べよう

―N.N. 回想―

 しばらくして、やってきたアレスは目を丸くした。


「あぁ、そうかそうか……うん、そうだよね。分からないよね、これが食べ物だってことも。いや、食べるってことも、可哀相に」


 そして、サンドイッチを持っていただけの自分の前に歩み寄った。


「まず、このビニールはこうやって剥がす。それで、ちょっと押し出したら食べやすくなるよ」


 自分の手を操りながら、彼はサンドイッチを食べられるようにした。


「って、言っても無理か。じゃあ、まずは匂いを嗅いでみようか。ほれっ」

「う!」


 自分の手を持ち上げ、サンドイッチを鼻へと押し当てる。経験したことのない感触と匂い。もうその日だけで、驚きという感情を完全に理解した。


「美味しそうな匂いでしょ? じゃあ、次は食べてみよう。サンドイッチはねぇ~簡単に手でちぎれるんだ。それ~ってね」

「あ……」


 手の中で、一つだったものが二つに分裂した。でも、形は違った。同じ物なのに。当たり前でも、無知だととてつもなく神秘的に映った。


「口、入れてごらん。ぽいっって」


 自身の口を指差し、手から投げ入れる動作をしてみせた。ただ、意味を全く理解出来なくて、自分は見たままにやった。ちぎったサンドイッチを、アレスの口にめがけて投げるという行為を。


「わ! 違う違う! 俺に投げないで! わわわ! コツを掴んでくれたのは、嬉しいんだけど! サンドイッチが勿体ないから!」


 しかし、全く入らなかった。なので、教えて貰ったようにちぎって量産した。


「美味しい店のサンドイッチなのに、それをゴミにするような真似しちゃ駄目だって! わっ、もうそんなに小さくなってる! はっ、もしかして……俺の口に入れるものだって認識しちゃった? 違う、違うんだってば! 君に食べて欲しいんだよ!」


 アレスは困ったように笑いながら、必死にそれが床に落ちないように受けとめ続けた。そして、自分の手から完全に消え去った後、彼の手からそのサンドイッチを食した。


「ぅんむ」

「噛んで。ほら、こうやって」


 自分の顎を掴み、上下させた。その上で、さらに彼自身も咀嚼の真似を分かりやすく見せた。それで、何となく感覚を掴めた。


「ん……はぅ」


 あの溶けるような柔らかさと、まろやかなチーズの味を忘れたことはない。それが、人生最初の食事だったから。煌びやかなものでもないが、強く焼き付いている。


「……はぁ、疲れた。もっと色々教えてあげないとね。急務だな、こりゃ。でも、俺は仕事があるから……そろそろ行く。また、夜になったらご飯を持ってくるね。はぁ……妹が赤ん坊の時でも、こんなんじゃなかったよ……」


 酷くぐったりした様子で、彼は出て行った。そして一人、闇の中でサンドイッチの余韻を味わい続けた。

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