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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第四十三章 これから先へ
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理解する為に

―ホテル屋上 夜―

 イザベラさんに代わって、このホテルを守る為に力を消耗した僕は屋上に落下した。叩きつけられた痛みはあったが、それに勝る達成感があった。


「そんなに引っ張らなくても……自分は逃げも隠れもしないのに」

「信用出来るかよ。てか、びっくりしたぁ……ふっと落ちてくから、まさかの死かと思ったぜ」


 ゴンザレスは、N.N.の手を引っ張りながらゆっくりと屋上に着地する。


「死なないよ……今はね」

「いやいや、色々大変なことになってるんだが」

「ん……? あぁ、頭から血が出ているのか」


 どこに一番大怪我を負っているのか分かっていなかったが、血が真下にぼたりと滴り落ちて現状を理解した。


(情けないな。こんなことで怪我をするなんて。とりあえず、止血をしよう)


 僕は袖を破り、ゴンザレスに尋ねた。


「どこが一番酷い?」

「え、あ~……ここらじゃねぇかな。てか、何なら俺が治癒の魔法でも……」


 ゴンザレスは、自身の前頭部を指差しながら言った。


「君だって、力はかなり使っているはずだよ。それに、君は帰らないといけないんだ。瞬間移動でね。君は他人には殺されないけど、自分で自分を殺せるんだ。うっかり自死なんて……困るからね」

「それって……心配してくれるっていう認識でいいのか?」

「そのつもりで言ったんだけど……」


 親切心を、それ以外のもので捉えられてしまうなんて心外だ。


「ほ~ご心配どうも。じゃあ、とりあえず俺が代わりに巻き付けてやるよ」


 不機嫌そうな顔から一転、殴りたくなるような笑顔を浮かべて、ゴンザレスは僕から袖をひったくる。


「い、いいよ。それくらい、自分で……」

「ちゃんと巻き付けねぇと、駄目だろ。遠慮すんなよ、別に下手なことはしねぇから」


 そう言うと、ゴンザレスは器用に袖を僕の頭に巻き付け始める。


「うっ!」


 多分、取れないように結んでくれたのだろう。ただ、それで締め付けが強くなって痛みがほとばしり、情けない声が漏れてしまった。


「出来たぜ? でもよ、あんま強がるなよ。いつだって、俺は治してやれる。自分の限界くらい、自分で見極められるんだ。ま、それは置いといて。とりあえず、この場所と巽の応急処置はどうにか出来た訳だが、N.N.はどうするんだ? かなりヤバめだけど。不老不死とは言えども――」

「あのさ……思ってたことを言ってもいいかな?」


 すると、しばらくじっとこちらの様子を静かに見つめていたN.N.が不思議そうに問いかける。


「なんだ?」

「少なくとも、自分とゴンザレス君は初対面だと思うんだけども……どうして、そんなに自分のことを知っているのかな?」

「調べろって言われたからだぜ、巽に」

「……よく調べたね。もう自分に関する資料は消したつもりだったんだけど」


 僅かに、N.N.の表情が曇る。


「瞬間移動出来ると、セキュリティなんてどうってことないからな。立ち入り禁止ゾーンに侵入しまくって、や~っとだ」

「負担を考えれば出来る人はいないし、不審者が内部から突然そこに現れるなんて思ってないからね。これが明らかになることがあれば、厳しくなるだろうけど。で、そこまでして調べる必要はどこにあったのかな、巽君」

「内から見る情報と、外から見る情報を照らし合わせたかったんです。それらの情報で、貴方を成敗するつもりでした。ただ、あの時とはもう気持ちが変わっているので、そのつもりはありません。でも、貴方のことをもっと知りたい。龍も全てを把握している訳ではないようなので……」

「えぇ……俺の時間……」


 ゴンザレスの目に、失意が灯る。こうなることは見えていたが、嘘はつけない。後で、きっちりと謝罪するつもりだ。


「打ち倒す為じゃない、理解する為に知りたくなったんだ。目的が変わっただけ。無駄じゃないよ、ゴンザレス。だから、まずは……貴方の人生を教えて欲しいんです。その後に、ゴンザレス……君の調べた情報について聞かせて欲しい」


 最初の目的とは違う。重要性も低くなって、ゴンザレスのテンションが下がってしまうのも分かる。でも、僕らの知ることとゴンザレスの知ることは違う。これは、改めて自分自身を見直す良い機会になるだろう。


「フフ……理解か。果たして、巽君には出来るかな――」


 N.N.は、腹部に突き刺さったままになっている剣を撫でながら、自身の境遇について静かに語り始めるのだった。

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