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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第四十三章 これから先へ
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君がいたから

―ゴンザレス ホテル屋上 夜―

 上空の二人の様子を見て、俺は度肝を抜かれた。何故なら、二人共ボロボロだったからだ。特に白い方――通称、N.N.の怪我は酷かった。体には亀裂が入り、そこから血が染み出している。しかも、腹部には光り輝く剣が突き刺さっている。剣を引っこ抜いたら、そこから全部砕け散ってしまいそうだ。そんな状態なのに、生きているのがおかしい。これが、不老不死の力なのだろう。

 そんなN.N.を抱きかかえる巽、まさかこれをやったのは――。


「あ、あの~」


 恐る恐る、俺はこちらに背を向ける巽に声をかけた。


「……あ、人だ。ごめんごめん、ちょっと頭がふわふわしてて……自分のことはいいからさ、もう巽君に体を返してやってよ」


(ん? 何の話だ?)


「あぁ……その方が良さそうだね」


 意味不明なやり取りの直後、巽はこちらに振り向く。少しぼんやりと、焦点の定まっていない様子だった。


「お、お~い?」

「え、あ……あぁ、ゴンザレスか」


 しかし、すぐに笑顔を浮かべる。でも、それはこいつお馴染みの愛想笑いだと分かる。何かを誤魔化す為の。


「あぁ、ゴンザレスか……じゃねぇよ。人をこき使っておいて、その態度はねーだろ。俺帰るぞ、コラ」

「ごめん、ちょっと頭がぼーっとして……回らないんだよね」

「まぁ、今はいい。で、この状況は何だよ。お前が抱き抱えてるその男は、諸悪の根源だろ。仲良しこよしじゃねぇか、端的に説明しろ。状況によっては、ここで俺がラスボスになる」


 俺の気持ちを想像してみて欲しい。睡眠や鍛錬の時間を削ってまで、こいつの為の調べ物をしてやった。俺がやる必要はほぼなかったが、世界の為を想って頑張ったのだ。しかも、戦いにまで巻き込まれて。大事なことは何も言われず、ただ投げられた。

 それなのに、この状況はなんだ。無責任にも程がある。俺に何か恨みでもあるのか。心当たりはあるが、それを晴らすにしては大胆過ぎる。私怨で、ここまでのことをやってのける男の影武者になった覚えはない。


「それは……困るよ。僕、もう結構へとへとなんだ」

「一応、結構戦った後なんだよ。本当は、まだどうにかしたいって思いもあるんだけど……痺れが全然取れないし、体中が痛くてさ。もう参ったって感じ。自分の体が、こんな有り様になるなんてショックだね」

「あ~そうですかーそうですかー。俺のやったことは、それでどーでもいいことになるんですねー。じゃあ、俺いらなかったじゃん!」


 とんでもない虚無感に襲われて、ラスボスになる気力も失せた。


「そんなことはないよ。だって、君がここに来れたってことは……支配力が薄まってるってこと。それが、証明された。ゴンザレス、この屋上で特に妨害はされなかったんだろう?」

「ヤバめなじいさんには出会ったけど……そいや、そいつも支配って……」


 あのじいさんは、巽が用意したトラップだったということだろうか。だとしたら、あの異様さにも納得がいく。


「うん、やっぱり」

「よく分からんけども、俺って来るだけの存在だったの? だったら、今までの努力は何だったの?」

「何一つとして無駄じゃないよ。君がいたから、この状況がある。少しでも上手くいかなければ、国を変えられる状況は作られなかった」

「へぇ、巽君……気付かない間に、自分の作戦をやってくれたの? 驚いたな、自分って本当駄目だなぁ。経験不足だなぁ、はぁ……」


 N.N.は冗談めかして笑っていたけれど、心の奥底から吐き出されたようなため息が本音だろう。


「貴方のは、一時的なものでしょう。僕は、それを永久にしたかった。この国で、一年程度しか過ごしていないけれど……思ったんです。人もカラスも何も変わらない。たった一つのいさかいが、両者を隔てた。長い時の中で、隔離された両者はただ憎しみを子孫へと受け継いで……争い続けた。全てを狂わせて……」


 そう言った巽の目には、涙が浮かんでいた。

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