創始者はラテン語が好き?
―学校 夜―
保健室を後にして、リアムと一緒に帰る時には既に辺りは真っ暗になっていた。
「まさか、他にも四つも学校があるなんて! あ~ワクワクする!」
少し前まで気絶してベットで眠っていたとは思えないほど、楽しそうにスキップしている。
「……幅広く教育をしているんだね。魔法や魔術だけじゃなくて、芸術や運動に学問、音楽……それぞれの才能を生かすか。ほとんど理解出来なかったから、他の大学の名前はもう覚えてないけど……いいよね、そういうの」
僕の国にある学校は、限られた人しか通えない。そもそも、学校に行こうという意欲がある人も少ない。学校の数も数え切れるほど。それなのに、この国はどうだろう。沢山の人達が学校に通っている。自身の興味があるもの、得意なものを学ぶ為。それ専門の学校に。
生活レベルが全く違うことは分かっている。僕らは、まだ発展の途中だから。だが、目指すべきはこの国なのかもしれない。魔法などが生活の基盤にあることを考えると、最終的な目標としては相応しいのではないかと思えた。
「ラテン語って言うんだよ、知らない?」
リアムはスキップするのをやめて、僕に顔を向けた。
「ラテン語……?」
聞いたことのない言語だ。僕が、ゴンザレスから学んだのは英語だけ。難しい言い回しから、基礎的なことまで全部教えて貰えた。お陰で、会話は滞りなく出来るようになったはずだ。
だが、知らない言語の単語を交ぜられたら僕は困ってしまう。聞き取れただけ良かったものだ。
「古代ローマで使われてたらしいんだ。ちなみに、古い魔術の呪文にはラテン語が使われているって授業で習ったよ。難しいらしいけど、使えるようになりたいな。あ、ラテン語は日常ではあまり使われなくなったけど、今でも使われる時は使われてるよ。そうそう、今使っている英語の語源にもなってたり……それに、何だか響きがかっこいいから好きな人は何かと使ったりもするらしいよ。だから……創始者の人も好きだったのかもね?」
「好きって理由だけで?」
「……フフ、俺には分かるよ。彼がラテン語が好きだってことは」
リアムは、自信満々に胸を張って言った。
「この学校が出来たのっていつなの?」
「さあ? でも、歴史はありそうだから結構前じゃないかな」
「だったら……何でそんなに自信あるんだ? それに、まるで知り合いみたいな言い方して……」
リアムが常識を超えるほどの長生きか、過去から来た人でなければそんな言い方は出来ないはずだ。そんなことはありえないし、創始者の好みなんて分かるはずもないし、その人の基本的なこと――。
(ん?)
その時、リアムがついさっき言ったことを思い出した。
「彼……?」
疑問に思ったことが、思わず口から零れ出る。
「ん? どうしたの~タミ!」
「あ、あぁ……いや」
考え過ぎだ、そう思うことにした。リアムの好奇心センサーが偶然興味を持って、そこだけ知ってしまったという可能性の方が高いような気がしたからだ。
「そう? あ、そうだ! ずっと聞きたいって思ってたことがあったんだけど、今聞いてもいい?」
「え? あ、うん」
リアムの聞きたいこと、それは何となく察しがついた。それは、僕が――あの姿になってリアムを襲ってしまった後の話だ。




