反省なんて
―学校 昼―
「……まったく。困りますよ、こんな派手な真似をされたら」
僕の目の前に座る男性、キャンベル学長は困惑した表情を浮かべて頭を掻く。学長はまだ若い。それは、初めて顔を合わせた時も、入学式でも思ったことだ。
「すみません……」
怒りのままに、僕はあの四人を滅茶苦茶にしてしまった。記憶する限りでは、何かを食べていた男性を蹴り飛ばし、その衝撃で大学の壁を少し壊してしまった。その後、その男性の仲間達の関節を無視した方向に曲げたりしてしまった。
「少しやり過ぎたと思って、反省してます」
というのは、建前だ。あの程度で、両親を侮辱された怒りが解消された訳ではない。本来なら、抹消してやるつもりだったのに。その直前で、先生が現れたのだ。
「少し? かなりですよ。はぁ……どうしてあんなことを」
学長は、どうしたものかと言わんばかりの表情で俯く。
「両親を馬鹿にされて……許せなくて。僕だけを馬鹿にしてくれれば良かったのに。どうして、それが親に向いたのか……弱いのに、弱い僕より弱いのに!」
思い出すだけで、再び怒りが込み上げてくる。弱い僕より弱い奴が、どうしてあんなに調子に乗れるのか。どうして、あんな奴が堂々しているのか。
「巽様がご両親を大切にされているその気持ちも、馬鹿にされて許せなかった気持ちも分かります。ですが、貴方達はもう立派な大人です。力ではなく、言葉で物事を進めるべきなのです。分かりますね?」
学長は顔を上げると、眼鏡の向こうから厳しい視線を向ける。そう言われて、僕は言葉を失った。ごもっともだ。僕は二十一歳、向こうは僕よりも年上。つまり、どちらもいい歳した大人。今更ながら、恥ずかしさを覚えた。
「……ごめんなさい」
「元々、あの四人が吹っかけた喧嘩だというのは既に周りにいた学生から聞いています。反省されているようですし、これ以上話すのはやめておきましょうか。まだ、ランチを済ませていないのでしょう」
「え……どうして、それを」
「我々は巽様を任された立場ですよ。何かあっては困るのです。薄々ながら気付いておられるでしょうが、貴方の身の回りのことは王の命により派遣された者が監視しているのです。まったく……こうなる前に、どうしてあいつは……」
「あいつ?」
「巽様を守っている輩のことですよ。もし、巽様が彼らを……揉み消すにも限界がある……それなのに、はぁ」
(揉み消す、か。あまり学校内で暴れるのは良くないな。彼らまで悪にしてしまう)
学長は、独り言を挟みながらそう説明した。
「ともかく、あの四人は停学処分とするつもりです。巽様も、あまり目立たれないように行動して下さい。ここの学生は好奇心旺盛で、行動力のある者が多い。一度、興味を持たれたら……恐ろしいほど追及してきますよ。やれやれ、困ったものだ……」
好奇心旺盛で行動力のある者達に目をつけられたくなければ、大人しくしていろということだろう。その筆頭なのが、リアムではなかろうか。
「はい。迷惑をかけてしまって、すみません」
もし、どうしても怒りが収まらなくなったら、今度からは外でやるようにしよう。そうすれば、悪になるのは僕だけだ。