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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第四十二章 最終決戦
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英雄のなりそこない

―N.N. ホテル屋上 夜―

 自分の体にいるのに、第三者視点から物事を見ているような気持ちになった。


「汚らわしいっ!」


 彼女は、彼の手を払いのけて力のままに押し倒す。そして、自分がずっと忍ばせていた勝利の剣を取り出す。


(知っている……!?)


 その剣を彼の首元へと食い込ませると、じんわりと首から血が滲む。


「うっ!」


 彼は苦痛の表情を浮かべながらも、彼女に問いかける。


「ぁあ……こんなことは無意味だ。彼らに罪はないのだから……ジャンヌ、君は愚かじゃない。本当は分かっているんじゃないのか?」

「魂の穢れは消えることはありません。罪は繰り返される。現に、生まれ変わりのその男は貴方と同じような罪を犯しました!」

「それは……そうかもしれない。でも、彼に君の憎悪をぶつけるな! それとこれとは関係がない!」


 その直後、彼は彼女を蹴り上げた。


(痛っ!?)


 肉体は奪われているのに、腹部への痛みはしっかりと感じた。奪うなら、感覚も持って行くべきだ。


(あまり戦闘能力は高くないんだな。さっきの動きを避けられないなんて。かつて、世界を救おうとして失敗した英雄なりそこないの実力なんてそんなものか)


 ずっと自分を苦しめているくせに、この程度の実力と知って絶望した。


(もっと……なんか、こう。なんかなぁ……まぁ、そんなものか。自分だって大した能力は持ってないし。彼女は、一人で革命を起こそうとして失敗した。仲間がいたから、ここまで来れただけ。自分に仲間がいなかったら……笑えるね、目に見える。魂の軌跡を完璧に辿ってしまう所だったなぁ)


「これが、勝利の剣……か」


 しかも、剣まで奪われていた。そして、彼の手の中で――太陽のように眩く輝いていた。フレイが、鍛冶屋に作らせたというその剣は、使い手を選ぶという。エトワールから、そのように情報を得たので間違いはない。条件や状況を変え、組織の構成員達にも使わせてみたが無反応。情報に誤りがあったのではと疑っていた。

 まさか、自分が手に取っても輝かなかった剣が、彼の手で煌めくとは。何だか悔しい。その剣が認める人物ならば、特別な状況は必要なかったということだ。


(勝利の剣は、どちらを認めたんだ? 巽君? それとも――)


「僕は勝利を求めるつもりはない。ただ、話がしたいだけなんだ。どうか、落ち着いてくれないか」


 彼は剣を下ろし、その場で膝をつく。しかし、自分の中でうごめく彼女の怒りの感情は収まる様子はない。


「何を今更っ! 自分は、自分は……この日の為に留まり続けた! この体でなら、絶対に死にはしません。どれだけ斬り刻まれようと、どれだけ力を奪われようと、どれだけ暴力を浴びようと決して! 永遠に!」


 なんて、捨て身で弱者的な思考だろうか。救いがなさ過ぎて、彼女が英雄になれなかった理由を悟る。


「彼の体に、ずっといたのなら……僕の状態だって――」

「死なないことくらい知っています。だったら、その分……かつて、貴方が殺した民の数だけその苦しみを浴びせられるじゃありませんか」


(もう完全に悪役だ。悲しみや怒りが永い間蓄積されていけば、悪意になるんだなぁ)


 そんな悪魔的な発言にも、彼は憐れみの表情を崩さぬままであった。

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