表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第四十二章 最終決戦
692/768

過去に縛られて

-N.N. ホテル屋上 夜―

 感情のまま、サンドバックのように巽君を殴り続けた。しかし、先ほどまでとは違ってその目から戦意は微塵も感じられなかった。時折、苦痛に顔を歪ませながらも、自分の攻撃を受けとめ続ける。


(なんだ、まるで別人じゃないか……巽君)


 憐みの視線で、自分を見続けている。


(どうして? どうして、そんな表情が出来るんだ。自分がそんなに惨めに見えるの? でも、今の君は自分と一緒じゃないか。あぁ……でも、コントロールされているのは自分だけか。なんでだよ。こんなに弱っちい君が抑えられるんだよ)


 自分の方が生きている年数も経験も多い。こんな所で、負けてしまうだなんて納得がいかない。


(何が違う? どこで差が……)


 数百年の記憶から、予想力の高さには自信がある。ただ、そこには自覚する脆さがある。この記憶にないものは、まるで分からない。


『じゃ~ん、本だよ! これを読んで、いっぱいこの世界のことを学ぼうね!』


(くそ……)


 未熟さを痛感する度、憎たらしいあの男の言動が蘇る。自分をこんな体に変え、壊した張本人。時を超え、姿を変え、名前を変えて、常に自分を弄び続けた。

 忌むべき存在であるというのに、皮肉にもそれにすがり続けている。今の自分は、あの男によって形成されているのだ。


『大丈夫、いずれ君の目にもちゃんと焼き付けてあげるから。それまでは、想像だけで楽しんでね。経験は、君の力になるからね……』


 ――殺しなさい、殺すのです。殺すのです、殺しなさい――


「うるさいうるさいうるさいうるさいっ!」


 忘れたいことに限って、忘れられない。聞きたくないことに限って、耳に入る。耐えられない。その不快感を全て巽君にぶつけていく。

 それでも、彼は逃げない。それが、余計に癪に障る。こんなことで、赦されるとでも思っているのか。自分は、自分は――。


「――ジャンヌ、駄目だ。こんなことは」


 気が付けば、彼の手が頬にあった。分からなかった。中で起こっていることばかりに囚われ過ぎて、なんてことのないものを見逃してしまったのだ。


「やめよう。僕らの生きていた時代じゃないし、僕らの体じゃない。もう眠ろう」


 そう言った、彼の雰囲気は変わっていた。


「っ……ぅ!」


 その雰囲気に誘発されて、どうにか抑え込んでいた怒りが溢れ出していく感覚を覚えた。


「少しだけ、僕らに時間が欲しい。ごめんね」


 ぷつり、と頭の中で糸の切れる音が響く。


「ふざけたことをっ! どの口が……それを言うのですか! 世界を混乱に貶めた貴方が偉そうにっ!」

 

 自分の意思とは裏腹に、口が勝手に動いた。


(まずい、なんてことをしてくれたんだっ!)


 憤りを覚えながらも、何とか奪取しようと意識を体に集中させたのだが――まるで無意味だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ