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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第四十二章 最終決戦
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単純なこと

―ホテル屋上 夜―

 それからも、僕はただ一方的に攻撃を受け続けた。反撃する隙も、回避する術も見当たらない。龍の力を使おうとすると、激痛に襲われる。


「はぁ、はぁっ……!」


 真っ白なその男は、悪魔のように見えた。見た目は穢れの一つもない白だけど、中は他の色を飲み込むほどの黒だった。


「あぁ、こんなに君を痛めつけても……どうしたら……」


 突然、彼の攻撃の手がとまる。何やら様子がおかしい。


「こんなの、違うのに。自分のやりたいことじゃないのに……」


 彼は頭を抱えて、苦悶の表情を浮かべる。


(なんだ? でも、今なら……!)


 待ちに待ったチャンスだと、僕は一か八かで暴風を巻き起こす。それにより、自分の体は吹き飛ぶ。誇れるような方法ではないが、何とか彼と距離を取ることが出来た。

 あの暴風でも、彼は吹き飛ばされることなくその場に留まっていた。さらに、逃げた僕に対しては何の反応もなく、ただ意味不明な言葉を叫ぶだけ。


「結局、殺すまで続くのか……でも、無理なんだよ。お前だって知っているじゃないか。もう終わらせてくれよぉ……この魂は自分のものなんだよぉぉお!」


 僕じゃない、誰かに訴える悲痛な声。演技なんかじゃない。見ているこっちまで、苦しくなってくる。


(まるで……体と意思を奪われまいとして葛藤しているようだ。あの頃の、僕みたいに。自身の中にいる化け物に、何とか訴えかけているみたいに見える。まさか、あの人も……)


 でも、それに同情しているほど余裕はない。僕は痛みに耐えながら、剣を取り出す。それと同時に、膨大な記憶量から引っかかる部分を探す。僕自身の記憶、魂の記憶、龍の記憶を辿っていく。戦いのヒントを得る為に。


「何としてでも壊す。どうせ、世界も醜いし穢れ切ってる。あってもしょうがない。このまま苦しい思いをするくらいなら、壊した方がずっといい。お前の思い通りになんて……認めないっ! 認めない認めないっ!」


 そして、記憶の中からいくつか可能性のあるものを見つけ出した。


「っ!」


(そうか、あの人は……僕と同じなんだ)


『苦しいよね、この歌。懐かしいな、自分もと~おい昔に毎日毎日聞かされたよ。心苦しいけど、自分の為なんだ。許してね』


 龍の力を宿す者だけを苦しめる曲から伴う苦痛への共感を示し――。


『必ず、貴方は罰を受ける。他の者が与えないのなら、自分がやりましょう。奪った命の数だけ、それに相応しい罰を与えるまではこの命、何度でも蘇るでしょう。どこまででも追いかけ、必ず罰を与えましょう。必ずや……必ずや――』


 白髪の女性が、その命をもって必ず復讐を成し遂げると誓い――。


『自分の魂が、永遠にこの世界に留まるようにして欲しい。その為なら、どんな試練だって乗り越える。叶わぬなら……手段は選ばない』


 龍が共有する記憶に、その女性が尋常でない殺気と決意に満ちた表情で凄むものがあった。


(僕らは……分かり合えるのかもしれない。共に乗り越えていけるのかもしれない。勝ち負けじゃない。対話は諦めちゃいけない。問題は、白黒つけられるほど単純じゃないんだ)


 それらを思い出して、僕の心は変わる。たとえ、自分のものでなくても背負っている。この世界に生まれた以上、それは揺らがない。

 それに、境遇はよく似ている。もしも、贖罪の機会が罪人全員に用意されているなら――僕らにとって、それは今だ。


(過去の僕らが出来なかったこと……子供でも出来る単純なことなんだ)


 僕は剣を収め、彼と向かい合うことを決意した。

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