五つの大学
―学校 夕方―
「んん……ここは……」
リアムは寝転がったまま、眠たそうに言った。
「ここは保健室ですよぉ。リアム君は気絶して運ばれたんですぅ」
「そういうことですか……」
「いや~大変だったな。まさか、あそこまで吹っ飛んでいくとは……結果として、生まれて初めて魔法が使えた訳だが……どうだ? もう魔法を使う感覚は掴めたか?」
「はい。あの感覚が……魔法を使うってことなんですね。あぁ……なんていい……」
リアムは愉悦にでも浸ったような表情を浮かべ、自身の両手をゆっくりと上げて手を組んだ。声からは、快楽にでも浸ったような気持ち良さが伝わってくる。
「……それにしても、近々タレンタム系列の大学が全て集まって発表会的なことするのに、一番の目玉がこんなことで大丈夫なんですかぁ?」
「タレンタム?」
聞き慣れない言葉に、僕は思わずそう尋ねてしまった。
「はぁ? おいおい……自分の通ってる大学の名前くらい知ってるだろ?」
教授が、信じられないとでも言わんばかりの表情で僕を見た。
(やっちゃった……どうしよう!? 魔法が学べるからっていう理由だけで、あっさり入ってしまったからここの学校の名前をちゃんと覚えてなかった!)
嘘に綻びが現れるのは、大抵嘘をついた本人の何気ない一言から。発してしまったが最後、もうどうにもならない。
「え……あ、その――」
「俺も知りたいです!」
突然、リアムが飛び起きて前のめりになってそう言った。
「はぁ!? お前も知らねぇのか!?」
「知りません! だって、俺が知りたかったのは魔法と魔術のことだけですから! 何かいい感じの所がここだったんで!」
「おいおい……お先真っ暗じゃねぇか」
教授は、憂鬱そうに頭を抱えた。
「最優秀賞は今年も取れそうにないですねぇ、ジェシー教授ぅ」
一方のアーナ先生は、ニヤニヤと楽しそうに笑っている。
「いいか……お前ら。ここはタレンタム・マギア大学って名前だ。いいか? これから先、お前らはどこ在学中ですか? とか聞かれることがあると思うんだよ。それで、答えられないとか致命的だぜ? しっかりと覚えとけよ、このお馬鹿共」
「アハハ……」
僕は、笑うしか出来なかった。一応、自身が在学している学校の名前だ。忘れないようにしておこう。将来、恥をかかない為にも。
「さっき、タレンタム系列の大学って言ってましたよね! 他にはどんな大学があるんですか!?」
リアムは興味津々だ。目が、いつもの好奇心センサーに引っかかった時の輝きをしている。
「タレンタム・デポルターレ大学、タレンタム・ムジカ大学、タレンタム・スキエンティア大学、タレンタム・アルス大学ってのがある。タレンタム五大学って言われてるぜ。ったく……お前ら本当に大丈夫か?」
(聞き取れたけど……意味の理解は出来ないな)
「いっぱいあるんですね! どんなことを学ぶんですか!?」
このモードになったリアムは、もう厄介以外の何者でもない。暴走機関車だ。
「デポルターレはスポーツを専門に学ぶ大学、ムジカは音楽を専門に。スキエンティアは科学とか……魔法とか魔術以外の分野の学問を学び、アルスは芸術を専門に学ぶ。どうせ、お前ら知らないだろうから教えておいてやるが……タレンタムの教育方針は個々の才能を伸ばすって奴だ。創始者がそういう考えでな。いくら魔術大国だろうが、全ての人間が魔術が一番に得意な訳じゃねぇってこった。好きなことも違うしな。マイカ=ゲインって知ってるか? 奴はムジカ大学出身だ」
「知っています! フフフ……凄いですね! あぁ、なんて素晴らしい教育方針……俺らとは違うことをメインに学ぶ学生と交流を持てるなんて、楽しみです!」
僕もその名前を知っていた。レストランのテレビのニュースで聞いた名だ。ピアニストで、多くの功績がある。若いのに白髪で、華奢なのに力強い音をピアノで弾いていた。
「ただぁ……トップで入学した子がまともに魔法を使えないとなると致命的ですねぇ。他にも沢山出る人がいるとは言え……やはり目玉になる訳ですからぁ。教授の自由時間はもうないですねぇ」
アーナ先生は、にやりと頬を歪ませた。




