本気の戦い
―ゴンザレス ホテル 夜―
ちょっと言葉を誤れば、即刻斬り捨てられそうな雰囲気だった。どうすれば、敵ではないと理解して貰えるのだろう。
(ここで、三つ巴みたいなことになるのは困る。ガラハッドと対立する意味なんてねぇんだ。そうなるくらいだったら、俺はあいつらの所に行きてぇ)
こういう騎士様みたいなタイプは、どれだけ言葉を並べても仕方がないだろう。何となく分かる。行動で示し、信頼を得るしかない。
「その女の反応を見る限りでは、どうやら私の部隊を消したのは貴様のようだな。先ほどの貴様らのやり取りが演技でなければ、だが。まぁ、大したものだな。この私の部隊に紛れ込み、これほどのことをやってのけるとは」
「いやいや、演技に見えたか? あれが。そんな演技派じゃねぇよ、俺は。ちょっと大学行ってた時にかじってた程度で、とても評価されるほどでは……ってこの話はいいんだ! 俺が、ガラハッド隊を消したのは事実だ! だけど、それは避難させる為であって危害を加えた訳では……」
「敵が一人増えたか。どちらも決して許すことは出来ない。この選定の剣で断罪しよう!」
彼は怒りを露わに、その剣の切っ先を力強く振り下ろした。脆くなっていたことも勿論だが、怒りの感情に引き寄せられて増大した力は、いとも容易く床を貫いた。
「いや、話を聞い……っ!?」
ギリギリのバランスで保たれていた床は、木っ端微塵に砕け散る。彼の周りを除いて。危うくナチュラルに落ちかけたが、大きめの破片を咄嗟に浮遊させてそれに乗った。
(なるほど、仲間がいたら絶対に出来ねぇ荒業だな。完全に敵扱いじゃん!)
だが、それで一安心という訳にはいかなかった。本来なら落下していくはずだった破片が、不自然にその場に留まる。かなり、嫌な予感がした。
「流石は、騎士様ね。折角、私が制御していたのに。全てを呆気なく破壊してくれるなんて。でも、どれだけやっても無意味よ。所詮、人間如きが悪魔に打ち勝つことなんて出来るはずがないんだから!」
「おい、余計なことを言ってんじゃ……ぎょぇぇっ!?」
そして、それはすぐに的中する。その場に留まっていた破片は、突如としてあり得ない軌道で飛び回り始める。
「ふん、なるほど。どこまでも邪魔してくれるのね」
このような空間では、鳥族の象徴である翼を広げていられない。恐らく、それが狙いであったのだろう。あまりに危険過ぎて、人が多かった先ほどまででは使えない術だった。俺が瞬間移動させたことで、もう何も守るものがなくなって吹っ切れたという所か。
巻き込まれる身としては、最悪だった。お互いに、遠慮していた部分が徐々に消えていくのをひしひしと感じた。つまり、それは本気の戦いの幕開けを示していた。




