晴れぬ気持ち
―N.N. ホテル前 夜―
「はぁ……やれやれ」
警察や一般人がうようよといる表へと、ようやくガイアは向かっていく。その背中はたくましく、まるで別人だった。パニックに陥った彼女を落ち着かせる一番の薬、それは――力が発動出来るものに触れることだ。
破壊の龍に命令されて、変幻の龍は人形サイズに小さくなった。それを、ガイアに握らせるとあっという間に大人しくなった。
「やけに、貴様はあの女に甘いな。好きなのか?」
彼女を見届けながら、破壊の龍はそう問いかけてきた。
「それはない。ただね……色々と思うことがあってさ。どうしても、あまり厳しくは出来ないんだ」
「ほう」
「彼女が、ああなのは自分の責任もある」
「それは、あの女を救う為だったのではないのか。母なる龍も、同意の下だったという記憶が残っていた。責任を感じる理由はどこにある。救いになったか、そうではないかはあの女が決めることだ」
「それは、そうなんですけども、ね。死ぬに死ねず、土の下に埋まる彼女を見つけ出し、龍を宿させた。結果、彼女は肉体的には健康を取り戻した。ただ、龍をそのまま宿すということは、別人と同居するのと同じこと。元々、情緒不安定だったけど、さらに感情も滅茶苦茶になって、自分自身が何かにコントロールされているような恐怖があると言っていた。その気持ちは、痛いほど分かる。理由はどうあれ、彼女をそうしてしまったのは自分だし……」
イザベラと共に研究所を襲撃した際、残されていた資料から彼女の存在を把握した。生き残りの面々からも、情報を収集して状態も知った。
『中途半端な生命力と回復力を持ち、どれだけ毒を染み込ませても死ななかった為、廃棄を決定。第六廃棄墓地を使用。被検体ガイアの実験を本日付にて終了とする』
彼らにとって、求める能力ではなかったのだろう。同胞が、悪意によって死ぬに死ねずに放置されている可能性があると自分らは考えた。それは、人智を超えた力ならば解決出来る可能性があるとも。
そして、危機的な状態を救えるかもしれないと伝えると、母なる龍は慈愛たっぷりに自身の体を提供することを受諾した。そのお陰で腐臭漂う地面の中から、文字通りボロボロになった彼女を救い出せたのだ。
「どちらも愚かだな。その慈悲を凡庸なる存在に向け、自身は肉体を失うなど……」
「でも、失ったことに対しては貴方も一緒でしょう? 貴方の場合は、知らぬ間にって感じでしょうけど」
「……何?」
「自主的か強制的か……フフ」
「貴様……」
(おっとっと、つい言ってしまった。協力を仰げなくなってしまったら困るからね。気を付けないと)
「ちょっと言ってみただけですよ。結果的には、貴方の方が肉体の支配権を得ている訳ですし。そんなに怒らないで下さいよ」
「状況が状況ならば、切り刻んでやった所だが……」
不満たっぷりにそう言うと、彼は再びガイアを見やる。
「順調に事は進みだしているようだ」
今のガイアはまるで別人。彼女のあの姿を見ると、心が痛む。有用に活用出来るようになるけれど、決してこの気持ちが晴れることはない。




