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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第四十一章 白ノ花
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自分の右手

―N.N. ホテル前 夜―

(始まったか)


 ホテルから、衝撃音や破壊音が響き、時折地面も振動する。イザベラが行動を始めた証拠だ。彼女のことなら、何も心配はないだろう。本当に頼りになる子だから。


(なら、こっちもやらないとね)


 今、自分は予測から外れた未知の世界にいる。失敗も成功も分からない。イレギュラーだけの、刺激に溢れた世界。その中で、自分がどれだけのことが出来るのか楽しみだ。

 手に取るように分かっていたことが、ぼんやりとしたものになる。喪失感や不安感はない。むしろ、興奮していた。


「――じゃあ、ガイア。そろそろ、お願い……って、あれ? ガイアは?」


 さっきまで、隣で震えていたガイアの姿は見当たらない。


「足元を見てみぃ、そこにおるぞ」


 変幻の龍の言う通り、視線を下に向けると、耳を押さえてしゃがみ込むガイアの姿があった。


「……何してるんだ、ガイア」


 呼びかけるも返事はない。耳を押さえているとはいえ、絶対に聞こえているはずだ。この雰囲気に圧倒されて、怖くなってしまったのかもしれない。彼女は戦闘経験はほぼないし、自分も甘やかしてきたから逃げ方を知っている。だけど、今回ばかりはそれも通用しないしさせない。


「ガイア!」


 自分が強く呼びかけると、彼女は肩をびくりとさせて、ようやく顔を上げた。


「絶対に殺されるもん。絶対に、むごたらしく殺されるもん! あたしみたいな奴が、こんな格好してたって全然似合わないし、気持ち悪いって思われるだけだよ! 見てよ、あの人達! 凄いものが見れると思ってるし、起こるって思ってるもん! そんな所に、こんなゴミ屑みたいなあたしが現れたって幻滅して、とりあえず殺されちゃう! こんな奴には、誰もついてきてくれないよ! あたしには無理!」


 目に涙を溜めて、彼女はそう必死に訴える。そう言われても困る。彼女には、人間達にカラスは味方なのだと示す役割がある。ずっと前から、その役割だけはやって貰うと伝えていた。

 もう組織の役職に就く者は、五人しか残っていない。順調に進んでしまったが為に。代役は立てられない。下位の者に、こんなにも危険な仕事は与えられない。役職を得ているからこそ、自分は信頼しているのだ。


「そんなことないよ。綺麗なドレスだし、ガイアはとっても美しい。その美しさに、種族は関係ないと思うよ。ガイアじゃなきゃ出来ない」


 圧迫しても、彼女には恐怖しか植え付けられない。どうにか説得するしかないのだ。早急に。わがままばかりで困ってしまう。本当、小さい子供を相手にしているようだ。


「ね、お願い――」


 とりあえず、立ち上がらせようと右手を伸ばしたのだが、血を吹き出して突然消えてしまった。


「あれっ」

「ひぃいいっ! 手が、手がっ!」

「何をごちゃごちゃと。吾輩を、こんなくだらんことに付き合わせるな。解決策はあるだろう。ガイアには甘いな、貴様は」


 原因は、破壊の龍だった。自分の手を破壊したのだ、このやり取りが気に食わなかったらしい。


「痛かった……何するんですか~」


 しかし、もう手は綺麗に再生していた。自分の体は死ぬことを奪われている。怪我は秒で治るし、このように破壊、切断されても瞬きする間に元通り。年も取らないし、劣化しかない。このような体になってから、時がとまっている。


「こんなくだらん会話をしている暇があるなら、さっさと動け。あの女もやっているのだろう。そんなに不安なら……」


 悪びれる様子もなく、彼は自分に歩み寄る。そして、次の瞬間――躊躇いもなく、再生したばかりの右手を引きちぎった。

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