三つの目
―ゴンザレス ホテル 夜―
いつか、どこかの教科書で見たような絵がここにはあった。それに目を奪われて、俺自身が剣を掲げるタイミングが少しずれた。
(うわ、なんか恥ずかし。誰も気付いてないだろうけど、恥ずかし)
「――やる気に満ち溢れていて素敵。胸が高鳴るわ」
一致団結するその雰囲気に、水を差す声がどこからか響いた。
「そこかっ!」
ガラハッドは躊躇なく、即座に俺達の背後に魔法を放った。凄まじいエネルギーが頭上を駆け抜けていく。
「まだ挨拶もしていないのに。急に殺そうとするなんて酷いじゃない。取り残されている人だったらどうするつもりなの?」
しかし、残念ながらそれが対象に当たるに至らなかったようだ。彼の視線の先に顔を向けると、そこには仮面をつけた黒髪の女が浮いていた。
「その殺気、その異質さ……この私が気が付かないとでも? お前が、関与していることは明白だ」
「近くに来るまで気付いていなかったくせに、部下の前だから見栄を張っているのかしら」
彼の発する気迫に臆することなく、仮面の女は煽る。
(騎士様にすら気配を悟られずに、ここまで来た……この場にいる全員を欺けるほどの隠ぺい力。この女……)
ただ者じゃない。この女からは漂っている、龍を宿す者特有の気配が。俺には分かる。身近にそんな奴がいるからだ。
「近くに来た瞬間に、気付いたのだから問題ないだろう。それで、お前……カラスか?」
「カラス? いいえ、私はその程度のものじゃないわ」
「ならば、なんだ。度胸があるなら、その正体を晒せ」
「私は……悪魔イザベラ。この世界を混沌に堕とす為に顕現した。この姿は、この世界の理に反さないようにまとっただけに過ぎないわ」
その発言に、周囲が騒めく。
「悪魔? そんなものいるはずがない」
「そんなもの、所詮はカラスの戯言だろう」
「これは、カラスの張った罠か?」
「そうだ、そうに違いない。何もかも上手く行き過ぎだと思っていたんだ」
にわかには信じられない、そんな様子だった。
(いやいや、このどちゃくそファンタジーな世界で悪魔の存在がふわっとしてんのはなんでだよ。どういう基準なんだよ。魔法やら神様の存在は認められて、悪魔は否定するって……)
異世界から来た身としては、その基準がよく分からなかった。この世界の夢と現の境界線は、俺にはまだ見えない。
「あぁ……悲しい。悲しいわ。王の配下である者達が、まだそれでしか判断出来ないなんて。なら、しょうがないわね。そんな貴方達を納得させるには……もう、これしかないものね」
すると、彼女はつけていた仮面を取って投げ捨てる。すると、その仮面の下にある顔は……自然にイメージ出来るものとは異なっていた。彼女には、三つの目があったからだ。




